Do ya think I'm sexy?
--- Gigolo on your Secret Service





大理石の柱の陰からさらに念を入れて、新聞越しに。

髪の色、形、身長、人相、服装、持ち物。

目の色はサングラスに隠れているが、何度見なおしても、条件に合う奴は一人きり。

ていうか、季節外れのこのリゾートに、ウィークデイの昼間、
チェックインするヤロー独りがぞろぞろいるかっての。

(イビザ、ブライトンってなら別だけど)

船に飽きて陸に上がってくる、金にだぶついた連中も、今日は出払っている。

ここではちょっと堅すぎるジャケットから出た頚。

白すぎる。

サインする指もちょっと細すぎ…。

腕とごつさは別に付き物って訳じゃないけどさ。

まだちょっと信じられないだけだ。

あいつが00ナンバーを持ってるって。

「あの、このお客さん、男の人ですよ? 若い…」

「わーってるって。間違えてねえよ」

しっかり指が食いこんでる札を返せと言われたくないんだろ、あんたは?

裸足に蛇革のローファ、シャツもパンツもグッチ。

どう見てもクルーズラインのババァひっかけて稼ぐアレだもんな。

…やったこと無いとも言わないし。

もう一枚、札を足して、ポケットに押し込んでやると、童顔のボーイ君、
わけがわからないまま、上着と帽子を渡して走り去った。




「ルームサービスです」

「ああ、入ってくれ」

…普通開けとかねえだろ、スパイって。

わっかんねぇ。

ワゴンを押しこんで、ドアストッパーを外す。

一応テラスから逃げる予定だけど、チェーンはかけない。

逃げ道は最大限確保、という基本位守ってないと。

「サインを頂けますか」

奴はバスローブをひっかけて、出てきた。

髪から鎖骨に透明な雫が散る。

なんか、…落ちつかなくさせる眺め。

いやいや野郎だし。

伝票にサインして渡してよこす。

氷を詰めた銀のバケツ越しに、初めて眸を見た。

吸い込まれそうな黒さ。

切れ上がった眦がふっと、下がる。

「ここの制服は随分贅沢だ」

低く甘い声は、面白がっている。

背中を汗が伝うけれど、ここで逃げたって組織に消されるだけだ。

「もう、お開けしますか?」

ナプキンで包んだオープナーの陰には、スタンガン。

殺す前に、なんか聞き出さなきゃいけないらしい。

何をなんて、下っ端の俺の知ったこっちゃないけどさ。

俺が気絶させたら、拉致る奴らがやってくる。

さ、サクサク仕事…っておい!

…なんで俺の手、氷に漬かってんの?!

肘の上掴まれてんのに、何で指先まで動かない訳?!

「ああ、丁度良かった」

目の前にかざされたのは、俺の…!

「じゃ、そういうことで。後ほどまた連絡する」




…ココ、どこだっけ?

奴がつまんで話しかけているモノに焦点合うのに、時間がかかった。

半透明のテープに貼り付いた虫みたいな…。

「ベッドのところに貼ってあったバグだ」

あー、盗聴マイクね。

…って?!

パキっと飛び散った、指二本で!

思わず飛び起き…ようとして、胸に走ったショックで声が詰まった。

「頭は痛くないだろう? コレや薬と違って他の場所に残らないのが、スタンガンの取り得だな」

…ソレ、俺が用心にワゴンの下に忍ばせといたブラックジャックです。

なんで…ゴム被さってんの?

濡れてるし?

ベッドの端に腰掛けてるこの人、何でバスローブの肩半分落ちて、眼が妖しく光ってる?

「見かけによらず、かなりきちんと準備してきていたようだが、生憎、俺のほうがうわてだった
ってだけだ。失敗したからには…ここらなら、サメの餌か?」

「まあね」

…少なくともこの男、組織より楽に逝かせてくれそうだ。

薄汚いドックの隅どころか、こんなゴーカな部屋だし。

…できれば、もう少し。

ジジイになって、イイオンナの上で逝きたかったけど。

ちょっとキタカタっぽく走馬灯を追おうとした目の前に、フルートグラスが差し出された。

相手もグラスを持っている。

「乾杯」

「?」

何に?

まあいいや、とりあえず飲んじまお。

末期のドンペリ、超美味い。

ヴィンテージイヤーのロゼ。

「手ぶらで戻ったって消しちまうんなら、もったいないから俺が貰うって連絡したんだが、
聞いてなかったか?」

はあ?

“?”マークに埋まってる俺の手からグラスを取り上げ、自分のも一緒に、空の暖炉に投げつける。

さすがクリストフル、景気イイ音…って!

割ってどーすんだ!

「ブラックジャックでHors D'oeuvreは済ませた」

バスローブが投げ出される。

信じられないほど、しっとりと滑らかなものが腿に触れる。

(お、男だ! 殺人許可証持ってる、俺と同じモノがついてるオ・ト・コだ! 
正気になれマイ・ジュニア!!)

「さて、お前のマグナム、味わわせてもらおうか、香藤洋二」




…かくして香藤は、天国に連れていかれましたとさ。




Fin.

この香藤君に見とれるうちに、セクスィー→ボンドガール→でもマグナム→
そして何故か、0○7艶笑パロになってしまいました…。
ご笑納くださいませ。




チキさま





Uploaded (anew) 12 October 2014


                      


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