「ねえ、ちょっと・・・」
「うん?」
「・・・保坂くん」
「なに、弓ちゃん?」
裸の胸を這い回る保坂の手のひらを、黒川が捉えた。
「やめろってば、もう」
疲労感を滲ませたかすれ声。
「さっきので最後って、俺言ったよね?」
「そうだっけ」
「こら! そこ、とぼけない」
「だって―――」
保坂の指先が、そっと黒川の額の汗を拭う。
「條一朗・・・マジ、そろそろ寝かせて」
吐息まじりの懇願に、保坂は苦笑した。
「・・・それ、さ」
「ん?」
「誘ってるのと同じだから」
「・・・へ?」
きょとんと、黒川は保坂を見返した。
ほの暗い寝室に、にぶい間接照明。
まっすぐな瞳が、保坂の切れ長のまなざしを探る。
ふたりきりで迎える、初めての正月。
翌日の仕事が入ってない夜というのも、実は初めてだった。
まだ何もかもが照れくさくて、もどかしい。
なかなか素直になれない。
それでも、
「俺の部屋で朝まで愛し合おう」
そんな気障な台詞を吐いた保坂に、黒川は真っ赤な顔で頷いた。
「ベッドで二人だけの年越しだよ」
「・・・よっ」
「ん?」
「真顔でそんな事、よく言えるもんだ」
つらつらと、恥ずかしげもなく。
「どんだけ派手に女と遊んでたのか、まったく」
そんな憎まれ口を叩きながら。
それでも黒川は、保坂の求愛に全身で応えていた。
応えようとしていた。
もう逃げない、と覚悟を決めてもいた。
「・・・俺にロマンチックを求めても無駄だからな」
釘を刺すのは忘れなかったけれど。
「わかったよ、弓ちゃん」
保坂の低い声がもう一度、ぎこちない恋人を呼ぶ。
「じゃあ、キスして?」
「・・・!」
「弓ちゃんから、キスして」
からかうように小さく笑って、保坂はさっさと目を閉じた。
「・・・っ」
全身を、わずかに強張らせて。
おずおずと、黒川は上半身をずらした。
しんなりとしたシーツに、火照ったままの肌が擦れる。
「條一朗・・・」
聞こえるか聞こえないか、わからないほどの声で囁いて。
黒川はそっと、恋人にくちづけた。
©藤乃めい
11 January 2007
わたしの妄想SSに、ちひろ様が素敵なイラストをつけてくださいました♪
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