マミ様 1

特別寄稿エッセイ 「The Longest Journey からの帰還」

〜ましゅまろんどんさんが「春抱き小説」を書くまで〜



みなさま、初めまして。東京に在住しておりますマミと申します。

ましゅまろんどんさん(以下Mさんと略させていただきます)とは、20年近いお付き合いをさせていただいています。Mさんは映画『モーリス』を初め、色んな世界に私をはめてくれました。そう、私は20年近く色んなものを強制されているMさんの被害者です。

もともと好きな物のためならなんでも出来る人ですから、私に夜通し同性愛映画を見続けさせる位は、普通だったのでしょう。知り合った当時はちょうど、『モーリス』、『アナザーカントリー』が封切られ、同性愛映画を日本で上映するのは珍しくありませんでした。

管理人註・・・イギリス美形男優が優雅に戯れるお耽美なほも映画。

それでも、今ほど日本も寛容ではありませんでしたから、その手のものを見つけるには、特殊な嗅覚が必要だったと思います。Mさんはその手の特殊な嗅覚を持ち、見つけてくる映画はほとんど一緒に観に行ったのではないでしょうか。

管理人註・・・モノホンの方を対象にしたゲイ映画じゃなくて、女の子が好きそうなお耽美ほも映画ですよ? 当時、三鷹オスカーとかテアトル新宿とかで、『モーリス』『アナカン』『マイ・ビューティフル・ランドレット』深夜三本立てとか、あったんです(爆)。

吉祥寺にあり(今はないのでしょうか)当時としては非常に珍しかったBL専門店にも、何度通ったのでしょうか。

管理人註・・・東宮千子さんや葉芝真己さんの同人誌ショップのことです。

挙句の果て、『トーチソング・トリロジー』でマシュー・ブロデリック(アメリカ俳優・映画『プロデューサーズ』に出演中)にはめられて、ブロードウェイまで行かされるわ、E・M・フォースター(『モーリス』の著者)で卒業論文まで書かされるわ、ハワースまで行き『嵐が丘』ごっこはさせられるは、それは大変でしたねえ。(マシューと卒論に関してはあくまで自分の意思ですが。)

管理人註・・・最初に映画『トーチソング・トリロジー』を見に行こうと誘ったのは管理人でしょうが、いまひとつ萌えなかったので、マシューに関しては完全にマミさん個人の趣味です。もちろん、2泊4日旅行でNYにマシューの出ているミュージカルを見に行くという暴挙を強行したのは彼女で、わたしは呆れてチケットの手配を手伝っただけです。卒論は言うまでもなくマミさん自身の選択だし、ブロンテ姉妹の出身地として名高いイングランド北部のハワースに行きたいと言い出したのも彼女なんですよ? わたしはおとなしく、運転手&通訳&ガイドに徹しておりました。

しかし、こんなMさんがこうして皆さんに「春抱き小説」を発表できるまでの道のりは、一筋縄ではありませんでした。

前置きが長くなりましたが、今回はMさんが「春抱き小説」を書くまでに至った経緯で、私が知るところを皆さんにお知らせしたいと思います。

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皆さんご存知の通り、Mさんは文章を書くことが大好きですし、確かな文章力を以前から持っていました。そして当然のように、「小説を書きたい」という願望を持っていました。 ただ、「小説は書けない」ことも、ご自身よく自覚していました。正確には、「面白い小説を書けない」ことを。

「面白い小説が書けないなんてMさんになんてこと言うんだ!」という非難の声が飛んで来そうですね。ちょっと以下の文章を読んでいただきましょう。

井上三里が初めて小谷秀一に会ったのは、まだ中学生のころだった。二つも学年が上で部活も違ったが、家が近かったせいかまず母親同士が親しくなり、いつのまにか暇な休日をともに過ごすのが自然になっていた。
生来勝気で社交的な秀一と、芯はしっかりしているがおとなしい三里は、まったく対照的でありながら不思議に魅かれあった。「親友」という言葉でお互いを束縛したことは一度もなかったし、生涯の友情を敢えて誓いもしなかった。ただ−それが運命というものなのかもしれないが−秀一は三里から、三里は秀一から、離れようとはしなかった。
(『お嫁においで』より抜粋)

いかがですか? Mさんと知り合って1年後くらいにもらったものです。秀一と三里は幼馴染みの先輩・後輩です。秀一は、勝気で社交的・三里は、芯は強いがおとなしいという構図です。登場人物はこの二人以外に、大学のゼミが一緒の北村友美子がいます。小柄で明るくて、最初三里は、秀一が彼女を好きなのだと誤解しています。

率直にいってこの小説は、「よく書けているが面白くない」でしょう? いや、今読み返すと、これまでのMさんの苦労の背景を知っていることもあり、結構面白いのかもしれないのですが、少なくとも「すごく面白いもの」ではないですよね。それは、一つには勝気で社交的な先輩とおとなしい後輩、二人の間に入る明るい女の子という人物設定が、「なんかありきたり」だからでしょう。

小説を書くにあたり、Mさんはこの問題に常に悩まされることになります。そのために、小説を書き始めては結局完成しないままに。『お嫁においで』は珍しく脱稿し、数人の読者の目に触れることになりましたが、日の目を浴びることのなかった作品の数はどの位あるのでしょう。興味のある方は今度聞いてみてください。

管理人註・・・あまりに多すぎて気が滅入るので、数えたことはありません。

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昨年の夏、Mさんのロンドン宅におじゃました時も、話題は「どうしたら面白い小説が書けるか」でした。

いろいろと書いてはいるのだが、どうもいまいちで書き上げられないと。主人公の名前も舞台設定も決まっている。入れたいシーンもこんなにたくさんある。でも書き上げられない。夜な夜なその話はいつも我々の話にのぼり、そして結局最後は、「自分には書けないような気がする」と落ち着いて、その手の漫画や小説を読み漁って寝るのです。

この時も、「今はまっているものがあるから、ロンドンにいる間に読んでいってね。」と、当たり前のように『春抱き』全10巻(去年なので11巻はまだ)を渡されました。(実際我々にはそれが当たり前なのですが。)

今回もまた、いつものことだな程度に最初は考えておりました。部屋で春抱きDVDを見せられても、いつものことでした。ネス湖に向かうバスの中で、春抱きCDを聞かされるのもいつものことでした。そして書きかけの『水の都にて』を渡された時も、「このホテルに泊まらせたいのはわかるけど、それでどうするの?」と、いつものようにコメントしていました。

管理人註・・・どうしてもネス湖に行きたいっていうから休暇を取って同行したのに、この言い方はないんじゃない? これじゃまるでわたしが、春抱きのことしか考えられない変態さんみたいじゃない・・・(汗)。

ただ、Mさんの口から「お友達に春抱きの話をしたら読んでみたいって言って、日本で10巻大人買いした子がいるの。」と聞いたときは、あれっと思いました。これまで被害者は私一人だったはずでしたが、今回他にもそれを読んでいる人がいるという、初めての現象が起こっていました。

でもその時の私は、まだ事態が変化しつつあることに気づいていませんでした。

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そして、10月になり送られてきたのが、『水の都にて 完成版』です。

それを読んだとき、まず素直に「面白い」と思いました。というよりむしろ、これがMさんの文章かと正直目を疑いたくなりました。それまでのMさんの文章は、博学ゆえに難しい言葉・美しい言葉が散りばめられているのですが、いまひとつ物語と合致していないところがありました。そう、話の面白さが欠如していたので、言葉だけが浮いてしまっていたのです。

でも、『完成版』は全く違っていました。ホテルやヴェネツィアに関する言いたいことはもっとあったと思いますが(実際、世界のホテルやイタリアについて本を書いてもいいのではないかというくらいに知識をお持ちですが)、それは極力おさえ、香藤君から見た岩城さんの素晴らしさを表現することに徹していました。記者会見でのコメント、ヴェネツィアではゴンドラに乗る、ホテルはチプリアーニ、舞踏会ではお揃いのタキシード・・・今までも構想はずっと練っていて、しかし構想だけで、作品としては完成せずに終わっていた物ばかりでした。

それが今回は、一つの作品の中に上手く調和されて、それまでやや嫌味が感じられた巧みな文章も小説中に溶け込んでいたのです。

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そこから先の展開の速さは、凄まじいものがありました。HPを立ち上げ、これまでなら未完で終わっていた小説が、次々に完成していきました。そして皆さんの知るましゅまろんどんさんになったのです。

私は『春抱き』を読み返して、「なぜこの作品がMさんにこれほどまでの力を与えたのか?」と考えます。 岩城さんと香藤君のキャラクターのせい? AV俳優から役者へという設定のせい? など分析してみます。しかし原作『春抱き』の面白さの分析は、Mさんにはめられた被害者である私には力不足ですので、ここは皆さんにお任せしますね。

『春抱き』とMさんの出会いは、本当に運命だったのかなと思います。ずっと小説を書きたいと苦悩してきたMさんに、神様が巡りあわせてくれた贈り物だったのかもしれません。 言いたい放題書きましたが、Mさんの春抱きサイトの被害者ではなく一ファンとして、これからも面白いものを楽しみにしています。

最後に、タイトルの『 The Longest Journey 』は、『モーリス』の作者であるE・M・フォースターの小説6作品のうち、唯一映画化していない作品名を使わせていただきました。長くなりましたが、ここまでおつきあいくださった皆様、ありがとうございます。


マミ
2006年3月吉日


©マミさま

お近づきになって18年の旧友マミさんから、エッセイをいただきました。まさしく、旧悪を暴かれた気分。
感謝していいのか、恥ずかしがって地底に潜ったほうがいいのかわかりません(岩城さんに転んでから、『穴があったら入りたい』という表現を使えなくなった腐女子は、わたしだけじゃないはず・・・笑)。でもまあ、わたしのへたくそなBL書き人生のほとんどを共に歩いてきた(歩まされてきた、笑)盟友ですからねえ。
だいたい、わたし自身が書いたことすらほとんど忘れていた昔の小説の引用が出てきたのには、驚愕しました(苦笑)。作者ですら、今どこにその原稿があるのか分からないのに。
ちなみに、「はめられた」被害者だとご本人は仰ってますが・・・ホントかなあ。きっかけはわたしでしょうけど、でも何かに夢中になる心理状態は、誰かに強制されてなれるものではありません(笑)。わたしが好きになったものに次々と「はまった」彼女は、単に、わたしと非常に萌えツボが似ていただけだと、思うけど・・・(笑)。
ともあれ、三月生まれのマミさん。お誕生日、おめでとう。お忙しいお仕事の合い間にこんな衝撃的なもの(笑)を書いてくださって、ありがとうございました。
ましゅまろんどん
9 March 2006

2012年10月12日 サイト引越に伴い再掲載
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