ようこ様 1

アオジク


「香藤、どこに居る?」
ウッドデッキに出ている俺を岩城さんが探している声がする。
「こっち、庭にいるー」
先に、かたかたと音がしてヨウジが俺の傍にやってくる。
それに続いて岩城さんがグラスをふたつ手に持って、俺の居る場所に出てきた。
「冷えているけど、さすが冬の空気は気持ちがいいな」
そう言いながら、ワインの入ったグラスを俺に渡してくれる。
「サンキュ、岩城さん」
月の光で外は意外に明るい。
ヨウジは俺の足に寄りかかるようにして
まるくなって前脚に顎をのせ目を閉じている。

「・・・撮影で行った茶室の庭に梅の木があったんだ」
独り言のように岩城さんが話しはじめる。
「その梅の枝が蒼い色をしていてな・・・」
それきり、何も言わずに岩城さんはワインを飲んでいる。
俺は先を促すために聞いてみる。
「梅の枝があおいの?」
「ああ、ガクも蒼いんだ」
想像をしてみる。
太い幹からのびている蒼く細い枝。
その枝に蒼いガクに守られてふっくらと白い蕾。
「アオジク・・・と言うそうなんだがな。
その梅がちらほらとほころんでいて、とても綺麗だったんだ。
今日みたいな月夜にはさぞかし映えるだろうな」

煌々と降りそそぐ月の光に照らされて、凛とたたずむ梅。
岩城さんみたいだな。
「俺も見たいな、その梅」
「ああ、俺もおまえに見せたいと思った。
残念なことに個人のお宅の庭だからちょっと無理なんだけどな」
「そっか・・・」

でも俺には見えるよ、岩城さん。
こうして今、月光に照らされてる静かな横顔は
きっとその梅のたたずまいそのものだと思うから。




©ようこさま
February 2006 (uploaded)

2012年10月15日 サイト引越に伴い再掲載
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