風に立つライオン

風に立つライオン





弱いところを 見せられるってのはさ
その人が実は 強いってことなんだよね
ゆるがない たくましい自我っていうか
自分が自分であることを 肯定してるから
ありのままの心を さらけ出せるんだと思う



この歳になって やっと
それがわかった気がするんだ 俺



逆を考えてみれば わかるじゃない
ほんとに独りが辛くて 不安を感じてる人は
俺はさびしいって 口が裂けても言わないよ
独りが平気なふりをして 心をかたく閉ざして
北風から身を守るために 肩肘を張るんだ



近づく人間すべてに 敵意をむき出しにする
傷ついた野良猫みたいで 哀しいよね



初めて出会ったとき 岩城さんはそんな感じだった
世間の嘲りを跳ね返すために いつも心を鎧っていた
ひとりでも生きていけるって 誰にも頼らないって
全身に力をみなぎらせて 呻いてる感じがした
俺はそれを どこか斜に構えて観察してたと思う



可愛げなかったよね 俺って
岩城さんも相当 かわいくなかったけど



でも今ならわかるよ 俺はまちがってた
岩城さんははじめから 俺の前で涙をこぼした
感情の高ぶりを隠さずに 俺の胸で何度も泣いた
俺はそれが いとしくて愛しくてたまらなくて
絶対に守ってみせると そのたびに誓った



その気持ちはもちろん 今も変わらない
岩城さんを愛し敬うために 俺は生まれてきたから



だけど岩城さんは 俺が思うよりずっと強かったね
たしかにとても繊細で 情愛の細やかな人だけど
素っ裸の心を晒すのは すごく勇気がいる
傷つくのが怖かったら 人を信じるなんてできない
岩城さんにはそれが 最初からできたんだから



先の見えない若造だった俺を まっすぐに信じてくれた
眩しいほどにひたむきな愛情で 俺を包んでくれた



弱いって思ったことが あるわけじゃないけど
俺は岩城さんの強靭さを 見過ごしていたかもしれない
知っているつもりで 認めていなかったかもしれない
誰よりも綺麗で可愛い恋人に 有頂天になって
男のエゴ丸出しで 抱きしめて護ることばかり考えてたから



恋人の奇跡のような純情に 俺の目は曇っていた
素直な心だから 硝子みたいに脆いって決めつけて



たとえて言うならば 岩城さんは孤高のライオンだ
荒野に毅然と立って 静かにあたりを睥睨する
俺を受け入れて あふれるほどの愛をくれた
我が侭な俺のありのままを さらりと赦して
ひとり守っていた玉座の半分を 俺にそっと譲ってくれた



あまたの人間の中から 俺は岩城さんに選ばれた
生涯で唯一の恋人という 最高の勲章



吹きすさぶ嵐の中でも 雄々しく前を向いて
進む道を見失わずに 凛として歩み続ける
俺はそんな しなやかな野獣でありたい
険しい崖が立ちはだかっても 畏れることのない
岩城さんに恥じない 誇らしい自分でいたい



気高い魂のすべてを賭けて 俺を支えてくれる恋人
その一途な想いにふさわしい 輝かしい俺でいたい






藤乃めい
11 October 2007

サイト開設2周年を迎えました。
岩城さんをいつも理想の奥さんだの、永遠の新妻だのと呼んでいるので、わたしには彼がオンナに見えていると誤解されたりもしますが・・・あたりまえすぎて言わないだけで、岩城さんは男です(笑)。
それも、豊かで案外しぶとい大人の男だと思います。
その彼が香藤くんを愛し、生涯寄り添うために変遷を遂げた。
それこそが、『春抱き』の真髄なのだと思います。
岩城さんも香藤くんも、最高にセクシーな男の中の男。
彼らに出会えた幸運に、感謝しています。

2013年3月3日、サイト引越にともない再掲載。初稿を若干修正しています。