第三話 (後編)



「・・・んっ・・・」
熱のこもった、深い口付けに岩城の鼻から息が漏れた。
執拗に舌を探り、吸い上げる香藤の首に両腕を絡め、岩城は夢中でそれに応えた。
「・・・はっ・・・んっ・・・」
香藤の片手が胸の飾りを弾いた。
ビクッ、と岩城の身体が震え、軽く仰け反った。
「・・・なんか、前より敏感になってない? それとも、久しぶりだからかな。」
「・・・し・・・知るかっ・・・あっ・・・」
飾りに唇を落とし、舌でそれを転がしながら、全身に触れていないところがなくらいに手を這わせ、香藤は愛撫を繰り返した。
香藤の唇が触れる場所が上気し、しっとりと火照りを帯び、和えやかに匂い立った。
熱い息を吐きながらも、岩城は腰の奥に熱が集まってくる感覚に、焦れて腰を揺らした。
それに気付いて香藤は、ゆっくりと、岩城の茎に舌を這わせた。
「・・・は・・・あぁっ・・・」
長い黒髪が、岩城が顔を左右に振るたびに、褥の上をのたくった。
「・・・んっ・・・はぁっ・・・」
岩城の指が、香藤の髪に差し込まれた。
押し付けるように腰を振る岩城を、香藤は上目遣いに見て目元で笑った。
「・・・香藤ッ・・・もうっ・・・」
「うん。一回いっとく?」
声に出せず何度も頷く岩城の動きにつられ、黒髪が顔を覆った。
香藤は、身体を起こすと岩城の顔に汗で張り付いた髪を撫で付け、額に口付けた。
「・・・香藤・・・」
疼く茎に耐え切れずに、岩城は顔を顰めた。
「頼むから・・・」
「うん。」
香藤は、再び岩城の股間に身体を沈めると、先端を口に含み吸い上げた。
「・・・んあぁっあっ・・・」
岩城の白い身体が、弓形に仰け反った。
腰を香藤の腕に固定され、岩城は上半身を快感にくねらせた。
岩城の声が上がり、香藤はそれを手の平に吐き出した。
「・・・あっんっ・・・」
その指を、岩城の蕾に触れた。
一年ほども、香藤を受け入れていなかったそこは堅く閉ざされ、香藤の指をなかなか受け入れようとしなかった。
周囲を撫で、香藤は蕾に指先を潜りこませた。
「・・・んぁっ・・・」
岩城が思わず腰を引いて仰け反った。
「痛い?」
香藤の声に、岩城は首を振った。
「大丈夫だ・・・」
「ちゃんと解さないと、だめだからね。我慢して。」
「・・・ふ・・・ぅんっ・・・」
横抱きにしながら、香藤は岩城の唇をはみ、じっくりと岩城の中を探った。
「・・・んっ・・・ふぅっ・・・」
香藤の腕に縋りながら、岩城は耐え切れずに腰を揺らした。
「香藤・・・ゃ・・・ああっ・・・」
その場所を擦られて、岩城の背がしなった。
指を増やして、香藤は岩城の蕾を解していく。
堅かったそこが、瞬く間に熱を持ち、香藤の指を捕らえ巻きつき始めた。
「・・・はんぅっ・・・香藤っ・・・」
疼きに堪えられず、膝を立てて香藤の指をもっと、と強請るように腰を揺する岩城を、香藤は微笑んで見ていた。
「・・・あ、あ、ぁ、んっ・・・んぁあっ・・・」
香藤は岩城の中を、さらに指を増やして掻きまわした。
きつく眉を寄せて、岩城は声を上げた。
岩城の蕾はとろとろと溶け、香藤の指を離すまいと纏わりついた。
「・・・もう・・・香藤ッ・・・頼むっ・・・」
「だめだよ。」
香藤は、岩城の眦から零れる涙を唇で拭いながら囁いた。
「もう少し、我慢して。怪我、させちゃうからね。」
岩城は肩で息をしながら、首を振った。
「いいからっ・・・」
両手を香藤の首にまわし、岩城は喘いだ。
「我慢、出来ない・・・頼む・・・」
「・・・いいの?」
「いいっ・・・早く・・・」
岩城の中から指を引き抜いた香藤は、起き上がり立てた岩城の膝に、両手をかけた。
岩城は自分から両膝を開き、香藤の前に奥を晒した。
蠢く岩城の蕾を見て、香藤はにっこりと笑った。
「欲しがってるね、岩城さん。」
「ああ・・・」
岩城が、荒い息で答えた。
「だから言ったんだ。触られると堪えられなくなるって。」
その言葉に、香藤は満面の笑みを浮かべた。
「うん・・・挿れるよ?」
「・・・んっ・・・ああぁっ・・・」
ぐい、と腰を進め、挿いってくる香藤に、岩城は嬌声を上げた。
「・・・ちょっと、まだきついね。」
「・・・はぁっ・・・ぁんっ・・・」
中ほどまで入って、香藤は動きを止めた。
息を整えていると、岩城が両足を香藤の腰に絡み付けた。
「香藤、奥まで・・・」
「岩城さん、息吐いて。入れないよ。」
「ん・・・」
岩城が、胸を上下させ、ゆっくりと息を吐いた。
それに合わせるように、香藤は一気に岩城の奥まで、茎を打ち込んだ。
「・・・んあぁぁっ・・・」
岩城の背が撓り、香藤の首に腕を回して仰け反った。
繰り返す突き上げにあわせるように、岩城は腰を擦り付けた。
「・・・んあっ・・・んふっ・・・」
香藤の茎を岩城の柔壁が放すまいと、纏わりつき震えていた。
子を生す前よりも、岩城の痴態は激しく、見下ろす香藤を魅了した。
上げ続ける嬌声の中に、甘いすすり泣くような声が混じり始めた。
「・・・ふ・・・あぁ・・・か・・・香藤ォ・・・」
うねる柔壁に逆らって、香藤はぎりぎりまで腰を引いた。
「・・・くぅ・・・」
掠れた声を上げ、岩城はその次に来る波を待った。
香藤はその顔をじっと見つめた。
欲情に塗(まみ)れた、それでも綺麗な顔に、そっと唇を触れた。
「・・・香藤・・・?」
突き上げてこないことに、岩城が不審げに瞳を開けた途端、香藤は思い切り岩城の奥を蹂躙した。
「・・・ひっ・・あぁあっ・・・」
岩城が喉を引き攣らせて仰け反った。
「・・・あぁっ・・・んんぅっ・・・はぅんっ・・・」
「岩城さんっ・・・いいよっ・・・」
香藤の律動は、止まることを知らないように、岩城を翻弄した。
岩城が、甲高い声を上げて、二人の間で果てた。
それでも、岩城は香藤を呑み込む蕾を、擦り付けるように腰を振った。
「・・・香藤ォ・・・いっ・・・いいっ・・・」
我を忘れて、岩城は香藤に縋りついた。
久しぶりの岩城の中で、香藤の茎は縦横無尽に暴れまわった。
岩城も、それに応えて声を上げ、身悶えた。
「香藤っ・・・もっとっ・・・」
岩城の奥を穿ちながら、香藤はその半開きの濡れた唇を貪った。
「・・・ふぅんっ・・・んぅっ・・・」
岩城を抱きしめながら、香藤はその狂態に煽られ、いつになく切羽詰っていた。
「岩城さん・・・中でいってもいい?」
耳元で、熱い息を吐く香藤を、岩城は両腕を背中に回して抱きしめた。
「ねぇ、岩城さん・・・?」
「・・・いいっ・・・から・・・早くッ・・・」
岩城の白い肢体が、香藤の追い上げにしなやかにうねり、仰け反った。
「・・・馬鹿なことっ・・・聞くなっ・・・」
香藤の精が中で弾け、岩城はそれを感じて甘い声を上げた。
「やっぱ、岩城さんの中が最高だね。」
荒い息をつきながら、香藤は岩城の髪を撫でた。
瞼を閉じて、肩で息をついていた岩城は、その声に薄っすらと瞳を開けた。
汗にまみれた顔に、極上の微笑を浮かべる岩城に、香藤は喉を鳴らした。
「岩城さん、足りた?」
「お前はどうなんだ?」
岩城は、香藤の言葉にくすり、と笑った。
誘うように、岩城の唇を甘噛みする香藤の唇を、岩城はぺろり、と舐めた。
「・・・来いよ。」
「いいの? 朝まで、止まらないよ?」
「ああ、かまわない。俺が、欲しい。」
「岩城さん、それ、堪んない。」
屋敷の闇にいる者たちが、耳を塞ぐことから解放されたのは、もう空が白々とする頃だった。



「・・・ん・・・」
「おはよ、岩城さん。」
岩城が目を覚ますと、香藤が褥に肘をついて微笑んでいた。
それに微笑み返して、岩城は起き上がろうとした。
まるで身体に力が入らず、褥に背をぶつけるように沈んだ岩城を見て、香藤が思わず声を上げた。
「ご、ごめん! やり過ぎたかも・・・。」
岩城は香藤の苦笑を見上げながら、自分の痴態を思い出して頬を染めた。
「いや、お前だけのせいじゃない。」
「で、でも・・・。」
「俺が欲しかったんだ。だから、気にするな。」
香藤は起き上がり、着替えを済ませると盥に湯を汲み、岩城の身体を拭いた。
岩城は笑いながら香藤がするに任せた。
「ほんと、ごめん。止まらなくて。」
「いいって言っただろうが。」
香藤の手を借りて起き上がり、新しい小袖に岩城が袖を通すのを見ながら、香藤は立ち上がった。
「佐和さんに、朝餉の仕度頼んでくるよ。」
「ああ、頼む。」
「殿、入ってもよろしゅうござりまするか?」
まるで、聞こえていたように佐和の声がした。
二人で顔を見合わせ、香藤が苦笑しながら扉を開いた。
「おはようござりまする。」
佐和が、朝餉の膳を捧げながら入ってきた。
その後から、雪人がもう一つの膳を持ってそれに続いた。
香藤と岩城から、目を背ける雪人の頬が染まっていた。
「えっと・・・。」
香藤が口を開こうとすると、佐和がジロリ、と視線を向けた。
「・・・ごめん。」
「いいえ。」
佐和がそれだけ言って、褥の上に小袖のまま、片手をついて身体を支えて座る岩城の前に、膳を置いた。
「あの、な、佐和。」
岩城が声をかけようとして、言いにくそうに黙った。
その染まった顔に、佐和は苦笑していた。
「・・・すまん。」
佐和や雪人の顔を見れば、寝不足だということが一目でわかった。
「夫婦仲良く睦みあわれるのは、良いことでござりまするよ。」
そう言われて、岩城はますます顔を赤くした。
「それは、嫌味か?」
「とんでもござりませぬ。」
佐和は気まずそうに立ったままでいる香藤に、座るように促すとその前に雪人が膳を置いた。
手を合わせて箸を取り上げ食べ始めた二人を、佐和は黙って見つめていた。
妙な沈黙に耐えられずに、香藤はちらり、と佐和に視線をむけた。
澄ました顔で、それを見返した佐和に、香藤は慌てて俯いた。
その顔に、佐和がたまらず噴出した。
「佐和さ〜ん、勘弁してよ。」
「はい、はい。ただ、統領を壊さないでくださりませ、殿。」
笑いながら頷く佐和に、岩城は項まで赤くしてそっぽを向いたまま、箸を動かしていた。
「ほどほどになされませ。屋敷のもの達も、困っておりまする。」
「は〜い・・・。」







「小君、小君・・・!」
岩城が、少し慌てて小君を呼び、あちらこちらへ視線を向けながら廊下をやってくる。
香藤は単姿のまま、庭をぶらぶらと歩いていた。
「岩城さん、どうしたの?」
「小君がいないんだ。這い回るようになったばかりなのに・・・。」
そう言いながら、振り返った香藤を見て、岩城は唖然とした。
香藤の単の袷から、ひょっこりと小君が顔を出していた。
真っ白で、尻尾と手足のと耳の先だけ茶色い子狐の姿で、小君はきょとんと、岩城を見上げていた。
「なにやってんだ。」
「え、散歩。」
「そうじゃなくて、小君、そこから出なさい。」
きゅぅ、と小君が首を縮めた。
垂れ目がなおさら垂れて見えて、岩城は思わず頬を緩めた。
「いいじゃない。ここが気に入ったみたいだよ。」
「いいことあるか。父親の懐に入りびたりなんて。」
「それ、焼きもち、岩城さん?」
「違う!」
くすくすと笑う香藤に、岩城は頬を真っ赤に染めた。
香藤が廊下へ上がると、岩城はその懐へ手を差し入れた。
「ほら、出なさい。」
「やぁ。」
小君の小さな声が聞こえた。
「やじゃない。」
「いいよ、岩城さん。」
岩城が少し怖い顔をしてみせると、小君は香藤の懐から、ぴょこんと飛び出した。
そのまま、小君は岩城に飛びついた。
「よしよし。怒ってはいないよ。」
人型に変わった小君を、岩城は抱きしめて頬ずりした。
「本気で怒れるわけないよ、岩城さんが。」
香藤がその二人を見つめて、にっこりと笑った。



小君は、大きくなるにつれてその力を発揮し始めた。
佐和に預けられるのが気に食わず、岩城の私室の几帳を揺らす、などということも度々あった。
二人が内裏から戻ってくると、小君は岩城に張り付いて離れず、香藤は夜、私室から佐和の元へ小君を連れて行くのに、難儀していた。
「小君、おいで。」
「やだ。おたあさまと一緒に寝るもん。」
「だめだ。」
「なんで? おたあさま、いいって言った。」
「・・・マジ? 岩城さん、勘弁してよ!」
香藤が、情けない顔で岩城を振り返った。
「ねー、おたあさま、抱っこして寝るって言ったもん。」
「香藤、いいだろう、一晩くらい。」
「岩城さんの抱っこは俺がするの!」
「なに言ってんだ、香藤!」
「いいじゃん、別に、隠さなくったって!」
岩城は、顔を真っ赤にして香藤の口を塞いだ。
「まったく、子供が二人いるような気分だ。」
香藤は、ぐずる小君を小脇に抱き上げた。
「いいから、いい子でね。」
「香藤、いい加減にしてやれ。」
香藤は岩城の声を無視して、小君を佐和のところへ連れて行った。
「いやぁ、おもうさまのいじわる〜〜〜!」



結局、翌朝、香藤は佐和から説教を喰らった。
「殿、いい加減になされ。」
「でもさ。」
「でも、ではござりませぬ。和子様とはりおうて、どうなさります?」
それを横目で見ながら、岩城は嘆息していた。
「だって、俺に我慢しろって方が、無理!」
「殿!」






続く・・・?
2006年2月12日




サイト引越に伴い2012年12月22日に再掲載。