Devotion

Devotion 祈りにも似た


「俺のこと好きになってくれたら
初恋ってことになるんだね」

静かな時間
ひとり寝の夜は
まどろみが訪れるのを待ちながら
おまえのことを想う

俺を包むぬくもりがないのは淋しいが
せつなくはならない
おまえがどこにいても
同じ夜の下で
俺のことを考えていてくれる
そう信じられるから・・・

まどろみが訪れるのを待ちながら
思い出したのは
ずいぶん昔に言われた言葉
まるでなつかしい古い映画を見ているように

おまえの言葉はいつでも
まぶしいほど鮮やかに
俺の心によみがえる

「岩城さんはさ
俺が岩城さんを好きになったとき
とっくに大人の男の人だったからね
初めてのキスも
初めてのデートも
初体験も
とっくの昔に卒業してて
あたりまえなんだけど・・・
俺だってそうだったけど」

おまえはそういって苦笑してみせた
とびきり綺麗なとび色の瞳が
俺を
俺だけをみつめていた

「でもね
やっぱりちょっと悔しいかも
この日本のどこかに
岩城さんのファーストキスを
もらった女の子がいるって
岩城さんのファーストデートに
誘われた女の子がいるって考えるとさ・・・」

俺の昔を想像して
勝手にやきもちを焼いて
照れてうつむくおまえ
あれはいつのことだったろう

俺はそんなおまえがかわいくて
どうしようもなくかわいくて
でも言葉にできなくて
ばかだな・・・と
吐息まじりに笑って抱きしめた

おまえに愛される以前の俺の人生は
くすんだ遠い記憶でしかない
しあわせなことも
辛いことも
あったのだろうがもう思い出せない
輪郭もぼやけた古い時間・・・

そんなものに嫉妬しないでくれ
そんなものに価値はない
俺の未来はすべて
おまえの
おまえだけのものだから

ひとり寝の夜は
まどろみが訪れるのを待ちながら
うつらうつらと考える

あのときのおまえに今ならどう答えるだろう
おまえに聞こえない言葉を
そっと唇にのせてみる・・・

この歳になって初めて恋をした

初めて愛することを知った
初めて愛されることを知った
初めて・・・
ひとりでは生きていけないことを知った

おまえだけ
おまえだけだ

不安も欲望もすべてさらけ出した
素のままの俺を
それでも抱きしめて離さないおまえに
身も心も俺のありったけを捧げた

おまえの腕の中で
初めて幸せの涙を流した
初めて何かを失いたくないと思った

愛している
愛している

終わらない夜・・・
息もできないほど深いくちづけも
めまいのするような熱い抱擁も
すべておまえが教えてくれた

おまえは俺のいのち
おまえは俺の鼓動
生きるよろこびを教えてくれた
魂がふるえるほどのよろこびを

おまえが俺を選んだ偶然を
おまえが俺を愛した奇跡を
神を信じたことはなかったが
それでもそっと感謝する

ひとり寝の夜は
まどろみに身をゆだねながら
おまえの夢を見る・・・




ましゅまろんどん
12 August 2005

2012年10月10日、サイト引越にともない初掲載(元は春抱き同盟への投稿作品)。若干レイアウトを整えましたが内容は編集していません。