第五話

Je te veux 2 あなたが欲しい 《2》




「んん・・・っあ・・・」
香藤のキスは、容赦がなかった。
アパルトマンのドアを、忙しなく閉めた途端。
有無を言わさず俺を掬い上げ、手近なソファにふたりして沈み込んだ。
奪い尽くすようなくちづけに、俺は溺れそうになる。
「待て、かと・・・ああ・・・んっ」
香藤の体重が、俺の胸を押しつぶす。
その背中を叩いて、待ってくれと伝えたが、きれいに無視された。
飢えた瞳が、俺を見据えていた。
「だめだよ、岩城さん。待て、ない・・・っ」
レイプのように、あっという間に着衣を剥ぎ取られた。
冷たい空気が肌に触れ、俺は首をすくめる。
「岩城さん・・・」
全裸に剥いた俺を見下ろし、香藤がごくりと喉を鳴らした。
「香藤―――」
荒い吐息をついて、俺はその視線を受け止める。
「頼むから・・・ちょっと、待ってくれ」
俺は上半身を起こして、その明るいとび色の瞳を見つめた。
「よく、顔を見せろ。そんなにがっつかなくても、俺は逃げないから」
俺の声は、震えていたかもしれない。
両手を伸ばして、ゆっくり香藤の顔を包んだ。
胸の奥から熱いものがこみ上げて、あふれそうになる。
「かとう・・・」
「・・・岩城さん!」
俺に飢えて、まっすぐにぶつかってくる香藤が可愛くて、可愛くて。
愛しくてたまらない恋人に、封印をするようにくちづけた。
額に。
まぶたに。
鼻先に。
香藤の顔がくしゃりとゆがむ。
「ずっとひとりにして、すまなかった」
震える唇に、ついばむようなキスをひとつ落とした。
「岩城さん・・・」
「パリで会えるなんて、思わなかった」
キスをもうひとつ。
それから、もうひとつ。
「ありがとう」
これだけはどうしても、言っておきたかった。
「香藤、ありがとう」
―――俺のしたいことをさせてくれて。
こんな俺を、追いかけて来てくれて。
香藤が、俺をきつく抱きしめた。
「岩城さん・・・岩城さん・・・岩城さんっ」
俺の肩に顔を埋めて、香藤が低くうめいた。
「好きだよ、大好きだよ。・・・ずっとずっと、会いたかった・・・!!」
熱い吐息。
うなじを這う舌の感触に、全身が甘く疼いた。







香藤はあらためて、俺をソファに横たえた。
今度はゆっくりと、初夜のようにやさしく。
「・・・寒い?」
俺の乳首にくちづけながら、小さく聞く。
久しぶりの愛撫に、どうしようもないほど肌がそそけだっていた。
少し吐息がかかるだけで、全身で感じてしまう。
「んん・・・熱い・・・」
「そう?」
香藤の触れたところすべてが、火傷しそうに熱かった。
喘ぎ声が抑えられない。
「はあ・・・んぁ・・・ふ・・・っ」
香藤は俺の太腿を開かせると、片方の膝をソファのアームに引っかけた。
するりと床に座り込み、俺の股間を覗き込む。
香藤の目の前で大きく開脚させられて、俺は羞恥で震えた。
「か・・・とぉっ」
しずくを零している俺のペニスをちろりと舐めて、香藤がほうっと息をついた。
「ここも、この匂いも・・・久しぶりだ」
幸せそうに笑って、とんでもないことを言う。
「・・・ん・・・ばっ・・・」
恥ずかしいことを言うな。
そう言おうとしたが、香藤の手でペニスをしごかれ、それ以上は言葉にならなかった。
「あぁ・・・んっ・・・はっ」
なつかしい大きな手の感触に、気が遠くなりそうだった。
香藤はそのまま、舌で後孔をつついた。
「ああ・・・っ」
ゆっくりとねぶられ、どうしようもなく腰が疼いた。
閉じた蕾が忘れていた快感を求めて蠢くのを、とめられない。
止められるわけがない。
「―――んん・・・この味も、久しぶりだね」
ほんとに、会いたかったよ。
俺の後孔にうっとりと語りかけて、香藤が舌を差し入れた。
「ふ・・・ああぁ・・・いっ・・・」
俺の中を濡らすあたたかい感触。
そのうち指が侵入してきて、内壁をくすぐるように探った。
「か・・・とぉ・・・ぁあん・・・ふっ」
俺はもう、甘ったるい嬌声をあげ続けるしかなかった。
長い指が徐々に深く、もっと深く、俺を侵蝕する。
久しぶりのその感覚に酔いながら、俺は今まで、どれだけ香藤に飢えていたか自覚した。
とてつもない飢餓感。
全身が、香藤が欲しくて震えていた。
「か・・・もう・・・ん・・・ああぁっ」
もう馴らさなくていいから、おまえが欲しい。
そう言いたいのに、言葉がうまく綴れない。
俺は、痙攣する太腿で、香藤の顔を挟み込んだ。
「・・・ん?」
顔を上げた香藤が、欲情に濡れた瞳で俺を見上げた。
「もう、ほしいの・・・?」
三本の指で俺の中をかき回しながら、かすれた声で聞いてくる。
その余裕のない声に、どうしようもなくそそられた。
「お・・・まえは・・・っ」
みだらに潤んだ自分の声に、顔がカッと火照った。
抱えられて宙に浮いていた片脚を動かして、震えるつま先で、香藤の股間をつつく。
タイトなジーンズの中心が熱く、はちきれそうだった。
「ほ・・・しく、ないの・・・か?」
そこをじわりと、踏みつけるように愛撫した。
「あうっ・・・岩城さ・・・!」
香藤が甘い悲鳴をあげた。
「もう・・・どうしてそう、挑発するかなあ―――」
がっつくなって言ったのは、岩城さんじゃん。
苦笑しながら、香藤がジーンズを脱いだ。
俺はごくりと喉を鳴らした。



俺の腰を抱えながら、香藤は俺の鼻先にキスを落とした。
「愛してるよ、岩城さん」
「ああ」
「・・・挿れるよ」
「ああ―――」
俺は香藤の背中に腕を回してしがみついた。
熱いペニスが、俺の後孔に触れる。
それを感じた次の瞬間、香藤は容赦なく、俺を一気に貫いた。
「んああぁぁ・・・っ!」
衝撃が、脳天まで突き抜けた。
声を抑える余裕など、とうになくなっていた。
香藤の、圧倒的な存在感。
猛った灼熱を迎え入れて、俺のあさましい肉壁が悦んで絡みつくのがわかる。
性急に肛内を擦りあげられて、俺は嗚咽をもらした。
「ああ・・・ふっ・・・んあ・・・はあっ」
「・・・いい、岩城さん・・・っ?」
俺は夢中で頷いた。
熱い。
燃えるように熱かった。
香藤が激しく叩きつけるように、俺の内壁を蹂躙する。
抜き差しされるたびに、目もくらむような疼痛と快感に全身が痺れた。
「あ・・・はっ・・・はっ・・・ん、んんぁっ」
振動にあわせて、俺はみだらに腰を振っていた。
より深く取り込もうと、香藤の腰に両脚を絡めた。
「い・・・わきさ・・・んっ」
俺の身体のいちばん奥深いところに、香藤がいた。
香藤が感じて、眉をしかめる。
その表情を見ているだけで煽られた。
「かとぉ・・・ふぅん・・・あっ、ああぁ」
俺をきつく苛む男を、腕の中に抱えて。
これ以上ないくらいひとつになった状態で。
俺は、幸せだ、と思った。
心も身体も、こいつでなければ満たせない。
こいつさえいれば、他に何もいらない。
そう思えるほどの相手がいることを、僥倖だと思った。
「か、とうっ」
俺の求めに気づいて、香藤が乱暴にくちづけた。
貪るような、荒々しいキス。
俺のすべてを奪い尽くそうというような。
そのまま香藤が、俺の最奥を抉った。
「あ・・・ひぃ・・・ああぁ・・・んっ!」
声が跳ね上がるのがわかった。
いつの間にか、香藤の腹筋にこすられて、俺のペニスは果てていた。
どろりと濡れた感触に、いっそう劣情を刺激される。
何度も、何度も。
酷いくらいに腰を打ちつけられて、気が狂いそうだった。
酸素を求めて、俺はもがいた。
香藤に身体のすべてを犯されて、覆い尽くされて、どうしようもなく感じて。
俺は恍惚として、香藤の名前を呼び続けた。
「ぁと・・・あああぁっ、かと・・・かとぉ・・・んんっ!」
「岩城さん・・・もう・・・!」
香藤が、全身をわななかせて、俺の中で弾けた。
「ああぁ・・・っ」
叩きつけられた熱い飛沫が、俺の中に満ちる。
断末魔のように暴れまわる香藤のペニスに後孔をかき回されて。
俺は甘ったるい悲鳴をあげて身悶えた。
荒い、吐息。
熱い肌。
汗でびっしり覆われた逞しい肩を、俺はゆっくり抱きかかえた。
「か・・・とう・・・」
ざらりとかすれた自分の声に、苦笑した。
「んん・・・?」
俺の腰を引き寄せて、香藤が重たそうな瞼を開けた。
まだ、息が整わない。
「寝て・・・ないんだろ」
「うん」
「少し・・・寝たほうが、いい」
「・・・そうだけど」
ついばむような、キス。
やさしい温かみに、俺は目を閉じた。
「時間がないから、寝るのもったいないよ」
「・・・いつ・・・?」
知りたくはないが、聞かないわけにもいかない。
「・・・明日の夜の便」
俺は思わず、ため息をついた。
とんぼ返りもいいところだ。
時間が許せば、香藤はどんな無理をしてでも俺に会いに飛んでくる。
そんなことなど、わかっていたが。
「無茶をして―――」
こみ上げて来る何かに、目頭が熱くなる。
俺は香藤のうなじに唇を寄せた。
汗のにおいを嗅ぐ。
肌の熱さに触れる。
この男が、愛おしくてたまらなかった。
「・・・ばかって、言わないんだね」
香藤がくすりと笑った。
「・・・ばか」
俺も笑って、香藤の首筋に噛みついた。
「痛いよ、岩城さん」
くすくす笑って、俺の腰を強く抱きしめた。
「・・・うるさい」
キスマークでは足りない。
俺は自分の歯形を舌でなぞってから、もう一度噛みついた。
「―――もう」
香藤のペニスが、俺の中でずくりと力を持つのがわかった。
「・・・あぁ・・・」
敏感な内壁をそろりと擦られて、俺の腰が揺れる。
ねだる、というべきか。
「誘惑したのは、岩城さんだからね・・・?」
「ば・・・」
あとの言葉は、やさしいくちづけに飲み込まれた。
再びしっかりと腰を抱え上げられて。
俺は笑って、香藤の首に両腕を絡めた。



a suivre




le 8 novembre 2005
藤乃めい





サイト引越に伴い2012年11月13日に再掲載。
初稿に若干の加筆・修正を施しています。