Stealing a moment of love

Stealing a moment of love つかの間の逢瀬


ふと振り返って
岩城さんが笑った
俺の足音に気づいて
ほっとしたように

夜の都心
絶え間ない喧騒
雑音に溺れていても
わかるんだね

スタジオに続く長い廊下
寒々しい蛍光灯
肩を並べて歩きながら
俺はそっと岩城さんの手をとった

指をからめて指輪をなぞる
岩城さんがちょっと首をすくめる
くつくつ笑いながら
もの言いたげに俺を見た

澄んだ瞳
俺を虜にして離さないまなざし
にじむような笑顔を見せる
最高にきれいな俺の恋人

腕をそのまま引き寄せて
誰もいないスタジオにいざなう
俺を誘うその腰を抱きしめたくて
その蠱惑的な唇にキスしたくて

大丈夫だよ
あと5分くらい
俺はせわしなく囁いて
携帯電話の電源を落とした

小さくため息をついて
岩城さんは上目遣いに俺を見た
しなやかな身体をふわり預けて
あきらめたみたいに目を閉じた

そのきれいなおでこにキス
愁いを含んだ眦にキス
おいしそうな耳にキス
かわいい鼻の先にキス

くすぐったさに身をよじって
岩城さんが笑った
俺をそそる白い首筋にキス
シャープな顎のラインにもキス

岩城さんの鼓動が聞こえる
俺の鼓動と重なる
好きだよ、好きだよ、好きだよ
そう言ってるのがわかる?

それからゆっくりくちづけた
ぷりんとした感触の紅い唇
とびきり甘いキスをしよう
んん・・・

愛されて 求められて
慈しまれて 守られて
俺はどんどんわがままになる
俺は際限なく岩城さんを欲しがる

浅いくちづけ
うんと深いくちづけ
奪い尽くさずにはいられない
もっと もっと もっと

岩城さんの手が俺の背中を叩く
苦しいよって合図
かわいそうになって解放したら
潤んだ瞳で俺をにらんだ

俺の腕の中からするりと逃れて
岩城さんは甘い吐息をついた
髪の毛を無造作にかきあげて
照れたように笑った

好きだよ、好きだよ、好きだよ
俺の鼓動が愛を告げる
岩城さん、岩城さん、岩城さん
ほかには何も考えられない

ざわめくドアの向こう
なじみのスタッフの声
タイムリミットだね
ふたりだけの時間はおしまい

息を整えて
岩城さんは俺の脇をすり抜ける
ドアを開ける前に
もう一度振り返った

瞳だけでそっと笑って
音をたててキスを投げてよこした
そうして風のように
姿を消した

俺は息を奪われて
その場から動けなくなる
岩城さん、岩城さん、岩城さん
うるさいくらいの俺の鼓動

一瞬の逢瀬
盗んだキスは極上で
好きだよ、好きだよ、好きだよ
それしか言葉がみつからない

夜のスタジオ
絶え間ない喧騒
雑音はもう聞こえない
あなたしか・・・見えない


ましゅまろんどん
28 November 2005

『遊楽第』のユウさんのお誕生日に差し上げた小品です。

2012年10月16日、サイト引越にともない再掲載。ハロウィン壁紙は・・・内容にまったく関係ありませんが、使ってみたかっただけです(汗)。