水の都にて

水の都にて　3

「ああぁ、んん・・・っ」
岩城さんのあえぎ声が、ひときわ高くなった。
うつ伏せて力の入らない全身を波打たせて、わきあがる快感に耐えるように。
背中から覆いかぶさって抱きしめながら、俺は片手で岩城さんの乳首を探りあてた。
「ああっ・・・くっ」
硬く凝ったそこを強く揉みこむように愛撫すると、岩城さんの身体がぴくぴくと痙攣する。
「気持ちいい・・・？」
「ああぁ、香藤・・・いっ・・・」
感じてしかたのない乳首を爪できつく弾かれて、岩城さんがのけ反る。
痛いと言いたかったのか、いいと言おうとしたのか。
荒い息にかき消されてわからなかったけれど。
―――でもたぶん、どっちでも同じ。
恋人が感じている深い官能は、俺の手の中の震えるペニスが教えてくれていた。
後からあとからこぼれる先走りで、しとどに濡れたそれを緩慢にしごくと、焦れたように声がもれる。
「ん、あぁ・・・香藤っ」
甘く啼いて、腰を俺に擦りつけ、無意識に先を促す。
いつだって俺を夢中にさせる、ふだんからは想像もできない媚態。
俺は岩城さんのなめらかな双丘にキスを落としてから、両手をかけて割り開いた。
「あう・・・んんっ」
谷間をつつっと指でなぞり、後孔を覗き込む。
そこはさっきまでの情事の名残でふっくら赤らみ、ぬらぬらと光っていた。
こぽりと雫がこぼれ、白い内股を伝う。
―――性器じゃないけど、性器なんだよね、ここ。
俺だけが見ることを、入ることを許された、岩城さんのいちばんいいところ。
熱くて、窮屈で、貪欲で、俺を天国に導いてくれるところ。
そこが、刺激を待ちわびたようにひくひくと蠢いて、俺を誘惑する。
「たまんないよ・・・」
いやらしすぎる眺めに、俺はごくりと唾を呑み込んだ。
「―――いつまで、見てるんだ・・・っ」
押し殺した低いかすれ声で、岩城さんが呆けている俺を責める。
「ごめん」
あんまりエロくって正視できないと思いつつ、そこから目が離せなかった。
って、本当のことを言ったら余計に怒られそうだから、とりあえず謝っておく。
俺はゆっくり顔を近づけた。
吐息がかかっただけで、岩城さんはこらえきれずに頭を振り、がっくり肩からシーツに突っ伏した。
無防備な腰を俺に預けて、羞恥心に全身を震わせながら。
それでも岩城さんは自分で膝を立て、懸命に息を吐いて力を抜き、俺の好きにさせてくれる。
俺が何をしたいのかわかっていて、それをすべて許してくれる。
―――愛されてるよね、俺。
俺は魅惑の後孔に夢中で舌を這わせ、するりと指を差し入れた。
「ああっ」
二本の指を深々と突き入れて、とろとろに熟れた内壁をかき回す。
岩城さんの全身ががくがくと揺れた。
吸いつくようになめらかな肌が、熱を帯びて桜色に染まる。
さらに指を増やし、俺の精液でたっぷり濡れた中を、丁寧に丁寧に愛撫する。
「あっあっあっ・・・んはっ」
岩城さんの弱いところを内側からこすると、濡れた声がいっそう跳ね上がった。
もっともっと感じて欲しくて、そこを何度も執拗にこすった。
「んあ、はうっ・・・かと、香藤・・・っ」
枕に顔を半分埋めたまま、くぐもった声で俺を呼ぶ。
「もう、欲しい？」
「・・・んんっ」
「疼くでしょ、ここ？」
後孔を弄りながら、わざと言葉にして聞く。
何もかもかなぐり捨てて、本能のままに俺を欲しがる岩城さんが見たくて。
「ばっ・・・あうっ」
岩城さんが身体をよじって俺を見た。
快感に潤んだ切れ長の瞳が、生理的な涙で濡れていた。
熱い息を吐きながら、感じて感じてしかたがないって表情で、意地悪なことを聞く俺をにらみつけた。
紅潮した頬も、汗で光る額も、強烈に色っぽい。
―――俺の劣情を煽りまくる、くらくらするくらい綺麗な俺の恋人。
「まったく・・・あんまり、調子に乗るな」
吐息まじりにそう言って、岩城さんはふいに腕を伸ばし、自分の中をまさぐる俺の指を捕らえて引き抜いた。
「あっ・・・」
指が後孔を抜け出す感覚に小さな声を上げ、そろそろと身を起こした。
「・・・え？」
くるりと身体を回転させ、仰向けにベッドに倒れ込んで、ほうっと息をつく。
せわしなく上下する胸板は、汗でうっすらと覆われていた。
いったん瞳を閉じてから、もう一度、けぶるような眼差しを俺に向けた。
俺の理性を根こそぎ奪い去る、婀娜めいた微笑。
その情欲にまみれた挑発的な瞳が、俺を射抜いた。
「来いよ―――」
ため息をつくように囁いて、太腿を左右に開いた。
ゆっくり、見せつけるように。
「何度でも言ってやる。・・・お前が欲しい・・・」
「い、岩城さん・・・！！」
壮絶な色香に、目眩がした。
その細い腰を抱きこみ、はちきれそうな俺のペニスを濡れた後孔にあてがって、一気に貫いた。
「あああああぁぁ・・・んっ！」
岩城さんの喉から、激しい嬌声がほとばしった。
俺はそのまま、熱くからみつく内壁を苛み、力いっぱい擦りあげた。
何度も何度も、叩きつけるように、きつい岩城さんの中を蹂躙する。
目の前がスパークするような快感に、律動すること以外、何も考えられなくなる。
こうなると、もう俺の完敗。
岩城さんに翻弄され、俺はただむしゃぶりつくことしかできない。
「んっ、はあ、あぁっ・・・香藤、かとっ」
溺れるように、すがるものを求めて、岩城さんの腕が俺の首に絡みついた。
「岩城さん、岩城さん・・・っ」
「あっあっ・・・ああぁっ」
飢えた動物がお互いを貪るように。
俺たちは、狂ったように求め合った。
岩城さんの膝を両腕で抱え上げ、ひときわ奥まで容赦なく穿つ。
「ひっ・・・ああ、あぁ！」
逃げを打つようにのたうち回る恋人を押さえつけ、上半身でのしかかるようにして唇を奪った。
苦しい姿勢に喘ぎながら、それでも岩城さんは、首を伸ばしてキスを返してくれる。
「んんっ、ふう・・・っ」
俺はペニスをぎりぎりまで引き抜くと、去っていく熱を追いかけるように収縮した内壁をきつく、酷いくらいに激しく擦りあげた。
何度も、何度も。
岩城さんの両脚が、俺の腰を引き寄せるように絡みつく。
「好き、好きだよ、岩城さん・・・っ」
「はあぁ、あぁ、あっ・・・いっ・・・！」
放っておかれてた岩城さんのペニスが弾け、どくどくと白い液体を吐き出した。
ねっとりした精液が腹を濡らす感覚に、俺はまたぞくりと感じてしまう。
ふと見下ろすと、岩城さんの紅を差したような目じりから涙がこぼれていた。
俺はその官能の涙を指ですくい取り、扇情的な半開きの唇になすりつけた。
俺の指に、やわやわした赤い舌が絡まる。
ぴちゃりと音をさせて、岩城さんは俺の指をしゃぶり、甘えるように歯を立てた。
「・・・もう、ほんとに！」
これ以上、俺をあおってどうするの。
達ったばかりで敏感な岩城さんの最奥を目指して、俺は腰を思いっきりグラインドさせた。
「あうっ・・・あん、ああぁぁぁっ」
俺をそそる甘い嬌声。
俺の腕の中で我を忘れて乱れる、その痴態。
どこまでも俺を包み込み、受け止めてくれる肢体。
心も身体も、すべて俺に預けてくれる、俺の最愛の恋人。
「・・・愛してるよ・・・！」
結局いつも、そんな月並みな言葉しか出てこないけれど。
ありったけの思いを込めて、俺はささやいた。
「はん、あああぁぁ、香藤、かとぉ・・・っ！」
すすり泣くように俺の名前を呼び、全身を戦慄かせて岩城さんがのけ反る。
その首筋にきつくきつく口づけながら、俺は岩城さんの中で果てた。
神経が焼き切れそうな快感に、身体がしびれた。
したたかに精を吐き出した俺のペニスが、岩城さんの中で断末魔のように暴れる。
「あん、あ・・・あぁあっ」
後孔をかき回す俺の感触に、岩城さんは目をぎゅっと瞑って耐えた。
「んん―――っ」
ぷっつり糸が切れたように、俺の肩にすがりついていた両腕がすべり落ち、シーツに投げ出される。
しばらく、俺たちの荒い息だけが、静かなベッドルームに響いた。



目の前の白い手を取って、俺はそっと指輪に口づけた。
岩城さんが俺のものでいてくれる証。
くすり、と岩城さんが笑う気配がした。
恋人は、俺がこのちっぽけなプラチナのリングに執着してるのを、知っているから。
その手が、慈しむように俺の髪をなでた。
「・・・おまえの、ものだ」
疲れ果てたような、ざらついたささやきが安心をくれる。
「うん」
「おまえだけの、ものだよ」
「うん・・・」
眠たそうな、気だるい声。
幸せで、幸せで―――涙が出そうだ。
ありがとう。
―――俺を好きになってくれて。
俺と一緒にいてくれて。
感謝の気持ちをこめて、俺は岩城さんにそっとキスを捧げた。




ましゅまろんどん
26 September 2005


2012年10月20日、サイト引越にともない再掲載。初掲載時のテキストを若干修正してあります。