寒椿 Adored and cherished

寒椿 Adored and cherished 後編




岩城さんの肩を掴んで、問い質したい衝動をこらえて。
俺は黙って、ぐっと深く腰を入れた。
「あう・・・っ」
岩城さんの顎が上がった。
細い腰を抱き込んで、きつくて熱い岩城さんの内壁を抉る。
苛めるように、なだめるように。
―――お仕置きのつもりで。
俺の気持ちを、岩城さんのど真ん中に刻みつけたくて。
「かとぉ・・・はぁん・・・あふっ」
突然はじまった律動に、ついて行けないみたいに。
岩城さんが惑乱そのままに、身体を仰け反らせて悲鳴をあげた。
さまよう両腕が、思い出したように俺の首にしがみつく。
「いわ、きさ・・・っ」
感じすぎる岩城さんの肛内が、ヒクヒク震えて俺に絡みついた。
俺を離すまいと、汗ばんだ両脚が俺の腰に廻る。
―――俺たち、こんなにきつく繋がってるのに。
こうやって繋がってるときがいちばん幸せだって、わかってるくせに。
どうしてまだ、不安なの?



岩城さんが口に出さなかった言葉。
『そうやって、いつまでおまえに―――』
俺の耳には、聞こえていたから。
『可愛い、きれいだって、言ってもらえるんだろう・・・?』
バカだね。
ほんとうに、バカだ。



「んぁあああぁぁ・・・!」
甘く掠れた嬌声をあげて、岩城さんが絶頂を迎えた。
俺からすべてを搾り取ろうと、内壁がうねって震える。
「か・・・と・・・っ」
俺を呼ぶ愛しい声。
俺にすがりつく愛しい身体。
せつなくて、もどかしくて、たまらなくて。
俺は恋人の最奥に、思いの丈を叩きつけた。
この人は俺のものだ。
俺だけのものだ。
この瞬間、いちばんそれを実感する。
「んふ・・・あっ・・・あぁぁっ」
俺の下で、俺を欲しがり、俺の精液を受けとめて、感じて、感じて。
溺れるように、俺の名前を呼ぶ岩城さん。
紅潮した顔に涙を浮かべる岩城さん。
俺が生きるために必要なものすべてを、惜しみなく与えてくれる。
こんなきれいなものが、あるのかと思う。
こんなきれいなものが、俺のものってこと自体、奇跡だと思う。



身体の中心で繋がったまま。
俺たちはしばらく黙って、火照った身体を重ねていた。
早鐘のようだった動悸が、少し緩やかになる。
結婚指輪をした岩城さんの手を、俺はぎゅっと握りしめた。
「香藤・・・」
何とも言えない色っぽいかすれ声で、岩城さんが俺を呼んだ。
「うん・・・?」
俺は岩城さんを抱き込んで、その額の汗を手のひらで拭った。
ちょっと上目遣いに、岩城さんが俺を見つめる。
恥ずかしそうに、ちょっと辛そうに、それでも目を逸らさずに。
「・・・すまん」
息を整えて、そう一言。
「うん」
俺はそっと頷いて、岩城さんの額にキスを落とした。
ついでにちょっと、じんわり湧いてる汗を舐めてみる。
「岩城さんのバカ」
「・・・ああ」
腕の中の恋人が、くすりと笑った。
「・・・そうだな」
ささやきと一緒に、甘いキスが降ってきた。



俺は岩城さんから離れて、ベッドに横臥した。
岩城さんが、肩まで布団をかけてくれる。
「・・・ねえ、岩城さん。俺、一生側を離れないからね」
「ああ・・・」
ため息のような低い声。
「それってさ。それって、一緒に歳をとっていくってことだからね?」
「ああ」
「俺はね・・・岩城さんが40歳になっても、50歳になっても。還暦だか米寿だかを迎えても、こうやって毎年、いちばん近いところで、お誕生日を祝いたいと思ってる」
「香藤・・・」
「・・・その頃には俺だって、いいかげん爺さんだと思うけど。でも」
俺は笑って、岩城さんを抱き寄せた。
「俺の腰が立たなくなって、岩城さんを満足させてあげられなくなっても、岩城さんは、そばにいてくれるでしょ?」
「ばか・・・」
岩城さんの手が、俺の股間に伸ばされた。
力を回復しつつある俺のペニスを、からかうようにするりと掴んでしごく。
「ぉわっ・・・ちょっと、岩城さん!」
岩城さんが笑った。
「あたりまえだろ」
ほっこり咲いた恋人の笑顔は、きれいで、色っぽくて、もの凄くせつなかった。



「・・・俺ね」
「ん?」
「岩城京介の一生をこの目で、特等席で、見たいんだよ」
「特等席って」
俺は岩城さんの頬を、両手で包んだ。
瞼に小さくキス。
「岩城さんの人生すべて、誰よりも近いところで見たい。最後まで見届けたい。共有したい。・・・だからさ、もう、俺に捉まったのが運の尽きだと思って、諦めて?」
「・・・香藤・・・」
一生、側にいる。
絶対にこの手を離さない。
どれだけ言ったら、この人の怯えを拭えるだろう。
こんなありきたりの言葉で、どれだけ伝えられるって言うんだろう。
でも他に、方法なんてないから。
俺はきっと一生こうやって、証明し続けるんだろうと思う。



俺の言葉をじっと聞いていた岩城さんが、しばらくしてふと身体を起こした。
「・・・岩城さん?」
するりと腰を浮かせて、俺に跨る。
「えっ」
俺はびっくりして、馬乗りの岩城さんを見上げた。
岩城さんの太腿が、俺の腰をしっかり挟み込む。
元気を取り戻した俺のペニスを掴んで。
じわりと、腰を揺らめかせて。
「うわ・・・っ」
岩城さんは嫣然と笑った。
「・・・これが暴れなくなる日が来るなんて、考えたこともなかったな―――」
両手で愛おしむように俺のペニスを包み込んで、そんなことを言う。
俺の大好きな、低い、セクシーなかすれ声で。
まなざしに、強い光が宿っていた。
ほら、来いよ。
そう、言ってる。



「岩城さん・・・!!」
たまらず、俺は岩城さんの腰を抱き寄せた。
素直に俺にもたれかかる上半身の重みが愛しい。
岩城さんの片手は、まだ俺のペニスを握ったまま。
「・・・そうだな」
腕の中で、岩城さんがつぶやいた。
「一生側にいて、愛してやるよ―――」
口説きモードの甘い響きに、俺の腰が疼いた。
「・・・おまえが使いものに、ならなくなってもな」
「・・・!」
俺は息を呑んだ。
とんでもなく不吉なことをささやく岩城さんが、とんでもなく婀娜っぽい顔をしてたから。
俺のペニスが一気にいきり立つ。
「冗談でもそんなこと、言わないでよ・・・!」
情けないことに、俺の声はちょっと震えてた。
岩城さんが、欲しすぎて。
「ばか」
岩城さんが、俺の額を小突いた。
「・・・自分で言ったんだろう?」
とろけるような笑顔で、俺を見据えながら。
岩城さんはゆっくり、俺の屹立に腰を下ろした。







静かな朝。
俺は、岩城さんの腕の中で目を覚ました。
俺を包み込む、あたたかい裸の胸。
たしかな心音。
幸せってこういうものか、と実感する瞬間。
やさしい鼓動に、じんわりと心が満たされる。
恋人を起こさないようにそうっと、俺はベッドをすべり出た。



今日は1月27日。
一年中でいちばん、特別な日。
ちょっとだけカーテンを開けると、まぶしい光が差し込んだ。
見下ろした庭には、真っ赤な寒椿。
淡く雪化粧をして、いっそう凛と咲き誇る。
岩城さんのお気に入りの花。
岩城さんみたいな花・・・?
あでやかで、強くて、いじらしい。
俺はそっと振り返った。



奇跡みたいにきれいな、俺の恋人。
誰よりも豊かで、たくましくて、まっすぐで。
健やかに眠るその姿に、俺は微笑んだ。
―――ねえ、岩城さん。
好きだよ。
結局それしか言えないんだ、俺。
俺を守る岩城さんも、俺を欲しがる岩城さんも。
俺のために涙を流す岩城さんも、俺の手でほころぶ岩城さんも。
大好きだよ。
きっと一生、俺は溺れっぱなしだ。
ずっとずっと側にいる。
絶対にその手を離さない。
「・・・ん・・・」
岩城さんが身じろぎした。
引き寄せられるように、俺は恋人のいる暖かいベッドに戻った。




ましゅまろんどん
27 January 2006


2012年11月23日、サイト引越にともない再掲載。文章に最低限の改訂を施しています。