ラブ・ストーリーは突然に

ラブ・ストーリーは突然に




抱いちゃったんだよね
ほんとに 自分でもわからない衝動なんだけど
抱けちゃったっていうか
抱きたいと思っちゃったって言うか



無我夢中だったからね
後から言葉で説明できないよ
いきなりリビドーのスイッチ入っちゃって
何しろ気がついたら俺 サイコーの決め声出してたもん(笑)
そう とびっきりの美人おとすときみたいに
(いや とびっきりの美人なんだけどね)
リキ入った口説きモード全開



きっかけ ねえ?
何だろうね・・・
若かったってのはあるね
岩城さんも俺も 駆け出しで
まだまだ先が見えなくて
必死だったし 不安も山ほどあったと思う
生きていくのに 生き残っていくのに
精一杯だった



あの日 運命の夜
・・・っていうのかな(笑)
新宿で飲んでたら 唐突に呼び出されたんだ
そう デビューでいきなり連ドラ主演の俺が
やっかんだダチにたかられてたんだよ(笑)
金子さんからケータイに電話があって
岩城さんが俺を探してるって



そりゃ びっくりしたよ
その時点で 岩城さんとつきあいはなかったからね
もうすぐ撮影の始まるドラマの共演者
テレビ画面の中で俺の「恋人」になる人
その程度にしか考えてなかった



もちろん知ってはいたよ
芸能界でも その前の仕事でも
ずっと先輩だったからね
こう言っちゃなんだけど 「裸のつきあい」もあったからさ(笑)
ああ もちろん
AV共演とか そういうこと
映画のオーディションでベッドインしてるしね
ライバルっていうか
目の上のコブっていうか(笑)
まあ 世代も違うしさ
性格も合わないし



そうだね
考えてみたら 岩城さんと俺
友達だったことは一度もないね
気に食わない同業者から いきなり彼氏になっちゃって
気づいたらプロポーズされてたから(笑)
しいて言えば
一緒になって10年近く経った今が
いちばん友人関係に似ている・・・かもしれない
でもやっぱり 違うな(笑)
俺は岩城さんを友達だと思ったことは一度もないよ
友達みたいな夫婦でもない
たぶん岩城さんも同じじゃないかな



ああ それね いや(笑)
先を越されたんだよ プロポーズ
俺がしたかったのにねえ
そのときはあんまり嬉しくて 舞い上がったけど
あとですごく悔しかった(笑)
うん そう ちゃんとやりたかったよ
指輪と花束持って 正装で片膝ついて
俺と結婚してくださいって(笑)



それでその夜 呼びつけられて
岩城さんのマンションに行ったんだ
第一印象?
けっこういいところに住んでるなって思った(笑)
でも 殺風景な部屋でねえ
生活臭がないっていうか 肌寒いっていうか
住んでる人間が見えてこない
そんな感じだったよ



俺を出迎えた岩城さんは・・・そうだな
あんまり言うと本人が嫌がるから
細かいところはパスだけど
何て言うんだろう
・・・崖っぷち だったね
焦燥感とか 嫉妬とか 不安とか
そういうものでぐちゃぐちゃになって
自分でも何をしたいのか 何にイラついてるのか
わからない感じだった



まあ 酔ってたしね
もともと繊細で生真面目な人だから
葛藤に捉われると どんどん深刻に考えちゃうんだよ
困ったらそのとき悩もう なんて棚上げできないんだ
それで身動きできなくなっちゃう
楽天的っていうか 能天気な俺とは
まるっきり正反対だよね



当時の俺は とにかく恐いもの知らずで
下積みもなしにいきなりブレイクして
思い上がってたからね(笑)
だから
そこそこ売れてるくせに
年齢だの容姿だので うだうだ悩んでる岩城さんを見て
バッカみたい
根暗だよなあって思った
うん・・・反省してます(笑)



今はね
俺も仕事がらみで わがまま言って
バッシング受けて
しばらく干されてたから(笑)
行く先が見えない不安に眠れない夜もあるって
それはもう この業界にいる以上しょうがないんだって
身をもって知りました
あの夜 岩城さんの脆さを嗤った俺は
世間を知らないガキだったんだって
わかってるよ



それはともかく
いつものクールさを失って 素顔をさらした岩城さんは
びっくりするくらい熱かったよ
むき出しの荒々しい感情
容赦のない言葉
俺の知ってるそれまでの岩城さんとは
まったくの別人だった
俺を傷つけようとして 自分が傷ついて
それはもう 強烈だったね
痛々しくて きれいで



何て言うのかな
今までモノクロの肖像画だと思っていた人が
いきなり総天然色で動き出したっていうか
すごいインパクトだったよ
息を呑むほどの 鮮烈な変貌で
俺は瞬きもできずに
目の前の生々しい岩城さんに 見惚れてたよ
うん そう(笑)
思いっきり 見惚れてたんだ(笑)



支離滅裂な岩城さんに突っかかられて
何バカなこと言ってんだよ おっさんって(笑)
切り返してもよかったけど
まあ そう言ったら
きっとその場で殴り合いになってたと思うけど
俺はもともと 平和主義っていうか
売られたケンカはにっこり笑って返品する主義だから(笑)



こんなこと言って 怒られないかって?
うん まあ その可能性は大いにあるね(笑)
でも岩城さんも わかってると思うよ
あの夜の ぶっ壊れた岩城さんがなければ
今の俺たちはなかったって



激高する岩城さんの
燃えるような瞳に魅せられて
タガがはずれて 本音をさらけ出した岩城さんの
震える唇から 目が離せなくって
気づいたらときにはもう
抱きしめて キスしてたよ



どうやってあの人を口説いたのかって?
本当のこと 言ってもいい?
・・・よく覚えてないんだよ 俺
ソファに押し倒した時点で とっくに勃っちゃってて(笑)
大興奮っていうか
すっごい盛り上がっててさ
うわあ 俺 あの岩城京介を組み敷いてるよ
うわあ 俺 男でもいけるのかって(笑)
自分の行動にツッコミ入れたのは 覚えてるんだけど



あの人の腕がさ
もちろん そのとき初めて
そういう意味で意識したんだけど
きれいに筋肉の乗った 思いがけず細い腕でねえ
(いや あの頃は 俺のほうが華奢だったんだけど)
指先までとにかく すごくきれいなんだ
その両腕が こう(笑)
するっと俺の首に巻きついたんだ
すがるように
確かめるように
何だろう・・・ぬくもりを求める感じ?
強く抱き寄せられて
それでもう 俺 暴走しちゃいました(笑)



あとは一気に行っちゃったねえ
最後まで全然 とまらなかったよ
考えてみたらあれ以降 今日までずっと
俺 あの人に溺れっぱなしだ(笑)



あはは・・・うん
セックスはよかったよ
俺たちの場合 出身の業界が業界だからさ
スイッチが入ったら 
刹那的でも 心がついて行っても行かなくても
ちゃんと気持ちよくなれるってことを 知ってるからね
身体が覚えてるっていうか(笑)
最高のセックス?
・・・いや
お互いある意味 初めてだったんで(笑)
最高ってわけじゃなかったと思う
あはは そう
セックスはまちがいなく 今のほうがずっといい(笑)



そのときの 岩城さんの心情ねえ
なんで俺に許してくれたかってことでしょ?
・・・それは 俺がいちばん知りたい(笑)
聞いても恥ずかしがって 教えてくれないけどね
だからきっと死ぬまで一生 謎だと思うよ



いや 違うよ
恋愛感情は 少なくてもあの夜には まだなかったと思う
だからってただ ストレスを発散させたかっただけで
相手は誰でも良かったとは 思ってないけど
あれだけガードの固い岩城さんが
どんな理由であれ
自分のテリトリーに俺を招き入れて 心を開いた
俺を拒まなかった
それは 俺以外にはありえなかったと思ってるよ



うん そう
笑ってやってよ(笑)
俺 根本的にすごいロマンチックだからさ
岩城さんには始めから 俺しかなかったって
信じてるからね



なりゆき・・・でもなかったよ
勢いや流れだけで 男同士そう簡単に
身体を重ねられるもんじゃないよ(笑)
でも 自然ではあったんだ
なるようになったっていうか
いや もう
何しろ いきなり勃っちゃったくらいだけどさ
飢えてたわけでもないのに
男の本能がどうしてそこで 岩城さんに反応するのかって
悩む余裕もなかった(笑)
自分のフレキシブルな性衝動に
我ながら 感心したけどね



ただ 今だから言えるのかもしれないけど
キリキリ張りつめて 
崖っぷちで 必死に踏みとどまろうとしてる
隙だらけの岩城さんを
俺は 可愛いって思ったんだ
それは 触れなば落ちんって風情のあやうさで
触れてみたい
落としてみたいって 思っちゃった
無意識のフェロモンみたいなもの?
それを嗅ぎ取ってしまったって感じ(笑)
男の色気に そういう意味で反応しちゃったのは
後にも先にも 岩城さんだけだよ(笑)



ケンカの相手が欲しかっただけかもしれないけど
あの夜 岩城さんが
わざわざ探して 会いたがったのは俺だった
それだけで十分じゃない?
きっかけとしてはさ



あの夜 あの時 あの場所で
ふたり向き合わなかったら
今の俺たちはなかった
そう考えちゃうよね やっぱり
恋も愛も結婚も含めて
俺たちはあの夜 始まったんだ



運命って言葉
俺もついつい使っちゃうんだけどね
実は あんまり好きじゃないんだ
ドラマティックな響きだけど
他人まかせっていうか
誰か 何かに操られてる感じがしてさ
俺はね
岩城さんが自分の意志で 俺を選んでくれたって思いたいから
俺は俺自身の力で あの人を見つけ出したって思ってるから



予想外?
そりゃねえ(笑)
男との情事ってだけでも かなり驚いたけど
あの男前な岩城さんを前に
可愛いとか
守ってあげたいとか
一生ずっと側にいたいとか
思う日が来るとは 夢にも思わなかったよ



それは岩城さんだって 同じだと思う
俺みたいな生意気なガキを
伴侶と呼ぶ日が来るなんて
考えもしなかったろうね



最後に一言?
まあ 恋っていうのはいつだって
思いがけず 前触れもなく はた迷惑に
降ってくるものだから
後はその 降ってきた感情と どうつき合うかだと思う
ときに 勇気がいることだけど



俺たちの場合は ちょっと特殊で
世間に祝福される関係じゃないけど
だからこれでも いろいろ悩んだけどさ(笑)
否定できるもんじゃなかったよ
自分の気持ちに素直に 身を任せるしかなかったんだ
最後はね



うん
それで今は幸せだよ
最高に幸せ(笑)
岩城さんが俺の側にいてくれるから
岩城さんが俺の愛を必要としてくれるから



あの夜 あの時 あの場所で
ふたり向き合ったから
今の幸せがあるんだよね
感謝してる
ほんとに感謝してるよ




ましゅまろんどん
12 January 2006


2012年11月18日、サイト引越にともない再掲載。文章に最低限の改訂を施しています。
ちなみに・・・普段、作品中にネット&メール用語・表現は決して使わない流儀なのですが、ここでは「(笑)」を多用しています。どうしてだろう、なんとなく、香藤くんの話言葉としてそれが自然な気がしたんですよね(汗)。例外です、ホント。