優しい夜 (Extended)

優しい夜 (Extended)




ねえ、岩城さん。
・・・もう寝た?



俺は上半身をそっと起こして、背を向けて眠る愛しい人の横顔を覗き込んだ。
すーすーと規則正しい寝息が聞こえる。
かけがえのない、俺の恋人。
生乾きの髪をそのまま、俺の枕を占領して。
気持ちよさそうに寝てる岩城さん。



確かに、顔はむこう向きなんだけど。
パジャマに包まれたしなやかな背筋が、俺の胸にピッタリ添ってるんだよね。
俺の鼓動を、全身で聴いてるみたいに。
俺のぬくもりを確かめて、安心したみたいに。
俺たちの身体はしっくり重なり合うようにできてるんだって、こういう時はホントに思う。



俺の裸の胸に、つるんとしたシルクの肌触り。
岩城さんの、ほのかなぬくもり。
ボディソープの匂いは・・・最近お気に入りのモルトン・ブラウンのやつだね。



俺はゆっくり腕を廻して、岩城さんを後ろから抱き込んだ。
なめらかな項に、ついつい触れたくなるけど。
疲れているのに、起こしたらかわいそうだ。



ねえ、岩城さん。
腕の中の岩城さんは、もちろん、俺の恋人なんだけど。
ときどき・・・そう、こんな穏やかな夜。
俺の子供みたいだって、思うときがあるよ。
抱きしめたい。
慈しみたい。
岩城さんの盾になって、この世のすべての悲しみから守ってあげたい。
愛しくて愛しくて、可愛くて、涙が出そうになるんだ。
子供のためなら、いつでも命を擲(なげう)つ親の心情。
それが、わかる気がするくらい。



それから実を言うと、お袋みたいだなって思うときもある。
無償の愛を、惜しみなくそそいでくれるから。
恋情なんかじゃ量りきれない、うんと大きな愛を、感じるから。
どっしり構えた、ゆるがない存在感。
何があっても、絶対に俺を信じてくれる。
甘やかされる心地よさ。
・・・お母さん、してるよね。
岩城さんが盛大に眉をしかめそうだから、これはここだけの秘密だけど。



ねえ、岩城さん。
幸せって、こういうものなんだよね。
側にいてほしい世界で唯一の人が、あたりまえのように側にいてくれる。
俺の腕の中で、安らかな寝息を聞かせてくれる。
一緒になって10年近くたった今、それがわかるよ。



代役のきかない、世界でたったひとりの人。
選ばれた俺は、今でも奇跡に感謝する。
昨日も、今日も、明日もね。



ありがとう、岩城さん。
こうやって俺の隣にいてくれて。
好きだよ。
大好きだよ。



俺はそう囁いて、目を閉じた。





ましゅまろんどん
21 May 2006


2012年12月25日、サイト引越にともない再掲載。初稿を若干修正しています。