希求 ― St Valentine's Day ―

希求 ― St Valentine's Day ― 4




岩城の疼きをなだめるように。
つぷりと、香藤が二本の指を奥まで突き入れた。
「あ・・・ぁっ」
岩城の全身が、衝撃に揺れた。
待ち焦がれた刺激を与えられて、後孔が蠢く。
うねる柔襞が、香藤の指を巻き込むようにとらえた。
「岩城さんの中、あっついね・・・」
さらに指を増やすと、岩城の腰が跳ねた。
ゆっくりと指で後孔を拡げて、香藤はそこに舌を差し込んだ。
「んん・・・あふっ」
したたる蜜を、味わうように。
香藤は岩城の細腰を抱えながら、じっくり後孔を愛した。
舌で、指で、狂喜して震える肛内を侵す。
ときおりピチャリと、濡れた音が漏れた。
そこを愛されない限り岩城が絶頂感を得られないと、知っているから。
―――解す必要などないほどに、岩城の中は熱く、熟れていたけれど。
香藤の指先が、岩城のいいところを引っ掻いた。
「かと・・・ああぁ!」
途端に、甘い声があがる。
香藤は内襞のその部分を、何度もこすりあげた。
堪えられないというように、岩城が左右に首を振った。
さまよう岩城の腕が、香藤の後頭部をぎゅっと押さえつける。
「・・・いい、岩城さん?」
熱い吐息が、ぽってり腫れて疼く後孔をくすぐる。
それだけで、岩城の全身がうねった。
香藤は身体をずらして、岩城の顔を覗き込んだ。
いたずらな指はまだ、岩城の熱い内襞をかき回しながら。
「・・・ねえ、いい?」
近くで聞こえた甘い問いかけに、岩城はうっすらと目を開けた。
「んんっ・・・」
香藤の愛撫が、岩城の言葉を奪う。
「いっ・・・ぁはん・・・」
熱に浮かされたように、岩城は夢中で頷いた。
胸の突起を押しつぶすようにのしかかる香藤の重み。
肌をさぐる、大きな手のひら。
汗まみれの体臭と、眦にかかる火照った吐息。
内腿に触れる、ずっしりと重量を持った香藤のペニス。
―――圧倒的な、香藤の存在感だった。
それらがすべて、どこまでも、岩城を煽る。
見下ろす薄茶色の瞳を見つめながら、岩城は喘いだ。
胸が苦しくて、どうしようもなかった。



「香藤・・・」
岩城はしなやかな腕をめぐらせて、香藤を抱き寄せた。
耳元で小さく笑って、香藤がいっそう身体を重ねてきた。
汗ばんだ胸がぴったりと重なる。
お互いの鼓動が、聞こえた。
脚をからめ、性器をきつく擦り合わせる。
岩城は全身で、香藤の熱を受け止めた。
気が遠くなりそうな陶酔感。
この瞬間、香藤が岩城の五感を支配する。
岩城の心も身体もすべて、目の前の男のものだった。
香藤の与える悦楽以外、何も考えられない。
「岩城さん・・・」
ぎりぎりの欲情でざらついた声で、香藤が呼んだ。
「・・・ん?」
岩城の顔にキスを落としながら、香藤が微笑した。
指先まで震える岩城の手をとって、そこにもキスをする。
それからゆっくりと、その手を股間に誘導した。
薄い膜をかぶっていてもわかる、完全に勃起した香藤の雄。
ズクズクと熱をもって、岩城を欲していた。
「触って。・・・わかる?」
香藤の手が、岩城の手をさらに導く。
ふだんあまり触れることのない、香藤の双丘の狭間。
「ここも・・・」
それから這い上がって、香藤の胸。
たくましい胸板と、乳首と、鎖骨と。
「ほら、ここもね」
そして香藤の顔と、髪と。
香藤の肌をひとしきりなぞって、岩城の息が乱れた。
岩城の手に指を絡めたまま、香藤がささやいた。
「・・・ここも。全部ぜーんぶ、岩城さんのものだよ」
子供に語りかけるような口調だった。
「俺はどうしようもなく、岩城さんにイカれてて。岩城さんも俺を好きでいてくれて。・・・俺、他に欲しいものなんて、ないよ。・・・ねえ、岩城さん」
全身を絡みあわせたまま、香藤が岩城の額にキスをした。
「岩城さんが、俺の幸せなんだよ。岩城さんさえ、いてくれればいいんだ。俺を幸せにできるのは、岩城さんだけだって―――」
香藤はゆっくりと、岩城にくちづけた。
「・・・知ってるでしょう?」
香藤の舌が、岩城の紅い唇をなぞった。
岩城の漆黒の瞳が、香藤を映して揺れた。
「だから、ね? もう難しいこと、考えないで。奪うどころか・・・岩城さんは、俺にすべてをくれてるんだよ」
「香藤・・・」
香藤を見上げる岩城の顔が、くしゃりとゆがんだ。
たくましい胸に顔をうずめて、何度も頷く。
香藤の腕の中で、岩城の肩が小刻みに震えていた。
はらりと降りかかる黒髪を、香藤はそっと撫でた。



「ふっ・・・ああぁ・・・!」
岩城の身体の奥深くに、香藤のペニスが打ち込まれていた。
極限まで押し拡げられた後孔が蠢いた。
はちきれそうな灼熱を悦んで、ねっとりと絡みつく。
もっともっとと、いきり立った香藤を最奥に誘導する。
「岩城さん・・・!」
香藤がかすれ声をあげた。
後ろから覆いかぶさり、岩城の細腰をすっぽりと包み込んだまま。
激しい律動に、岩城の全身がしびれたように波打った。
香藤が腰を揺すり上げ、叩きつける。
そのたびに、きらめく汗が飛び散った。
きつく抉られて震える岩城の後孔からは、ぐちゃぐちゃと隠微な音がしていた。
「はん・・・っ」
熱い奔流に流されて。
めくるめく快感に息もつけず、岩城は苦しげにうめいた。
力を失った上半身が、うつ伏せにベッドに沈み込む。
桜色に染まった裸身が、シーツの上でのたうち回った。
「・・・かとぉ・・・!」
枕に半ば、顔をうずめて。
香藤のために腰を高く掲げた、被虐的な姿勢で。
岩城はほとんど、惑乱にむせび泣いていた。
抜き差しにあわせて揺れる双丘には、紅い花が無数に咲いていた。
「あふぅん・・・っ」
香藤がぎりぎりまで、ペニスを抜く。
貪欲な柔襞が、香藤の熱を追いかけて窄まった。
その瞬間を狙って、香藤が一気に腰を突き入れた。
「んああぁ・・・!!」
岩城の喉から、絶叫がほとばしった。
しなやかな身体が、折れそうなほど仰け反った。
肌が熱くざわめく。
岩城はシーツを握りしめ、衝撃に耐えてぎゅっと眉をしかめた。
柔襞を切り裂く凶器のような香藤の灼熱。
それが何度も、岩城の肛内を蹂躙する。
「かと・・・あっ・・・んはぁ・・・っ」
絶え間ない絶頂感。
岩城の全身が、おこりのように痙攣した。
香藤の舌が、岩城の背筋を舐め上げる。
香藤の指が、後ろから探り当てた岩城の乳首を揉みつぶす。
「・・・いいっ・・・ああぁ・・・!」
息も絶え絶えになりながら、岩城は香藤の熱に酔っていた。
岩城の身体の中でドクドクと脈打つ香藤のペニスも。
岩城にぴったり密着した香藤の胸も。
岩城を守り、岩城にたとえようのない幸福感をもたらす太い腕も。
岩城の名前を呼ぶ、甘い声も。
すべてが愛おしかった。
それが香藤のすべてで、香藤の真実なのだと。
香藤の愛にくるまれて、他には何もいらないのだと。
心底から、そう信じられた。
―――香藤だから。
すべてを捧げ、すべてをさらけ出し。
すべてを分かち合えるのだと、わけもなく信じられた。



「岩城さん・・・!」
腰を激しくグラインドさせながら、香藤が苦しげに岩城を呼んだ。
「あふ・・・ひっ・・・ああぁ・・・んあっ」
それに応えたくても。
岩城の口からは、掠れた嬌声しか出てこなかった。
膝がガクガク震えて、まともに体重を支えきれない。
岩城のしなる身体をもう一度、背中から抱え起こして。
香藤が、深々と岩城の中心を穿った。
とろけるようにからみつく柔襞を、苛むように。
最奥のいちばん感じるところを、何度目かに突き上げられて。
岩城の背筋に、ビリリと電流のようなものが走った。
「かと・・・ああぁ・・・!」
全身を大きく慄かせて。
ひときわ甲高い悲鳴をあげて、岩城が仰け反った。
これ以上はない絶頂感に、肌があわ立つ。
指の先まで痺れるほどの強烈な快感に、岩城の四肢が痙攣した。
呼吸ができず、岩城は涙をこぼして喘ぐ。
「いわ・・・き・・・さっ」
香藤は、岩城の奥深くで達したようだった。
熱い脈動が弾けて、きゅうきゅうと締めつける岩城の内襞を擦り上げる。
肛内でのたうち回るペニスの感触に、岩城が身をよじらせた。
「あん・・・んっんっ!」
「いいよ、岩城さん・・・!」
香藤の荒い吐息を、背中に感じながら。
岩城は糸が切れたように、どさりとベッドに崩れ落ちた。



饐えた空気が、部屋に充満していた。
香藤はのろのろとベッドに横たわり、岩城の身体を抱き寄せた。
うつ伏せたままの岩城の汗ばんだ背中を、いたわるようにさする。
その感触に、岩城の火照った肌が震えた。
「岩城さん・・・」
岩城は、浅い息を繰り返していた。
あえぎが収まらず、息苦しさにむせ込む。
助けを求めるように、岩城は香藤の手を握りしめた。
それに気づいた香藤が、さっと起き上がった。
「・・・大丈夫?」
ベッドサイドのグラスを掴んで、ぬるい水を口に含む。
岩城の身体をひょいと裏返し、乾いた唇にくちづけた。
「んん・・・」
ピチャリと音をたてて、舌が交わる。
岩城が、口移しの水をゆっくり嚥下した。
力の入らない腕が、すがるように香藤の首に絡みつく。
そっと香藤が唇を離し、微笑した。
岩城の瞳は、まだぼんやりと焦点が合っていなかったけれど。
香藤はもう一度、グラスに口をつける。
岩城は目を閉じて、次のキスを待った。
「もっと?」
何度目かの口移しのキスの後。
香藤はベッドに胡坐をかいて、ほうっと深呼吸した。
あらためて、ぐったりとシーツに沈み込んだ岩城を見下ろす。
乱れた黒髪。
たっぷり水を含んで濡れた、赤い唇。
仰臥した胸板が、まだ荒く上下していた。
つう、と。
そこを汗のしずくが伝った。
香藤がそれを見つけて、指先で追いかけた。
岩城が、目を閉じたままうっすらと微笑した。
しなやかな指先が伸びてきて、香藤の手を捕まえた。
指を絡ませて、自分の胸に大切に抱きこむように。
くすくすと香藤が笑った。
「・・・なんだ?」
ゆっくりと、岩城が目を開けた。
ほの明るいルームランプが眩しいかのように、すぐに目を細める。
「最高だったよ、岩城さん。俺、死ぬかと思った」
情事の直後の気だるげな声のまま、香藤が屈託のない笑顔を見せた。
岩城の頬が朱に染まった。
「・・・ばか。どうして、おまえはそういう―――」
恥ずかしげに、岩城が顔を背ける。
香藤が小さく笑った。
「愛してるよ、岩城さん」
香藤がさらりと言った。
岩城が振り向くと、真摯な瞳が見下ろしていた。
聞きなれた言葉。
だがそのひと言には、新たな決意が感じられた。
ふっと笑って。
「ああ。・・・俺もだ」
岩城はかすれた声で応えた。
岩城の心臓の上で組まれた二人の手。
その指先に、ぎゅっと力がこもった。





ましゅまろんどん
14 February 2006


2012年12月09日、サイト引越にともない再掲載。初稿を若干修正しています。