いとしいとしと言う心

いとしいとしと言う心




あー、婚活。
婚活・・・コンカツ、ねえ。
俺にそれ聞くの、正直どうかと思うけど。


なんか今、すごい流行ってるらしいね。
伴侶を探すのに「流行」ってのも、おかしな話なんだけど。
就職活動みたいに、必勝マニュアルとか『傾向と対策』とかあったりするわけ?
婚活ファッションとかまでありそうで、何だかイヤだよね。
え、ホントなの?
あー・・・なるほど。
『最強のモテ服』とか、『愛されファッション』とか雑誌にあるのって、要するに婚活ファッションなんだ?
うん、考えたことなかったけど。

あ、でも俺、批判してるわけじゃないから!
そんなことないよ!

ちょっと前なら、ほら。
24歳とか25歳とか、その辺で区切られちゃってたよね。
今から考えるとちょっと信じられないけど。
そうそう、『適齢期』。
それを過ぎて結婚したいとか、今さら恥ずかしくって言えない・・・って雰囲気、あったんじゃない?
でも今はたぶん、『いい歳のオトナ』だからこそ、結婚したくなるんだよね。
婚活ブームのおかげで、みんな堂々と結婚相手を探してますって言える。
それは、悪いことじゃないと思う。

うちの事務所にも、けっこういるよ。
婚活がんばってる女の子。
男でもいる・・・と思うけど、あんまり聞かないなあ。
周囲に言いにくいのかもしれないね。
明るく前向きに、でもちゃんと将来を考えて行動できるって、凄くいいと思う。
何歳になっても、結婚したいときが適齢期だよ。


でも、うーん。
俺的には、コメントできないって感じなんだ。
役に立たなくてゴメン。

なんていうか、俺たちにはホンットまったく縁がなかったんで、どう反応すればいいのかわかんないんだ。
まともに考えたことない、って言ったほうがいいかな。
ああ、うん。
既婚者の傲慢って、言われちゃうかな。


だってさあ、俺、なーんにも考えてなかったもん。
結婚したいとか、家庭を持ちたいとか、そんなの思ったこともなかった。
笑っちゃうくらい、頭の中からっぽ!
俺も岩城さんも、恋人募集中ですらなかった。

でも、出会ったんだよね。
カンペキに、あれは不可抗力。
後はね、好きだって気持ちしかなかったと思う。
結婚相手の条件とか、将来の生活設計とか。
計画も打算も、なーんにもなかった。
バカだったんだよね、今になってみるとさ。
俺の場合は、マジでガキだったから余計に!


だって、最初に岩城さんに会ったのは、俺がまだ大学生のときだよ?
撮影現場でね、チラッとさ。
そこからいろいろあって、そのうち好きだって自覚したときだって、せいぜい22歳だったもん。
立ち止まって後先を考える余裕なんて、全然なかった。

うちはもともと、すっげー早婚の家系なんだよね。
親父とおふくろがそうだし、俺も妹も結婚はめっちゃ早かった。
後先よく考えずに突っ走るのって、うちの血だと思う。
猪突猛進?
いやいや、ロマンチックって言ってよ!


こう、なんて言うの?
俺は岩城さんに出会って、すっとーんと恋に堕ちた。
で、ほかには何も見えなくなっちゃった。
あとはもう、この10年間ずっと全力疾走。
シンプルだよね、ある意味。


あはは、そう!
若かったよね、ホント。
岩城さんも俺も、とにかく若かったと思う。
世間知らずで、だけど必死だった。
そうじゃなかったら、あんな無茶できなかった。

だって俺、自分でもすっげー強引だったと思うから。
あの人を自分だけのものにしたくて、ね。
他になんにも考えられなくなって、夢中で追いかけてたんだ。
振り向いてくれない岩城さんを強引に捉まえて、好きだって喚いて、見事に当たって砕けてさ。
それでも諦めきれなかった。
諦められなくて、めちゃくちゃに押して、押して、押しまくったもん。
―――それが恋愛だって、思ってたんだよね。


いくら俺がバカでも、今の歳じゃできないなあ。
あんなの、もう無理。
ひとつ間違えたら、俺って完全にストーカーだったと思う。
岩城さんが警察に通報してたら、ヤバかったかも。
若かったんだよ。
バカで、無謀だった。
あのときの俺だから、それができちゃった。
あのときの岩城さんだから、それを受け入れてくれた。
感謝してるよ、うん。


うん、それはねー。
振り返ると、どんだけ自己チューだったんだって思う。
反省はしてます。
岩城さんの都合なんて、ハッキリ言って考えてなかった。
テメーが惚れた相手の気持ちも、周りの反応を見る余裕もなかったのに、二人の将来像なんて描けるわけないよ。

俺は、岩城さんが欲しかった。
岩城さんのすべてが欲しかった。
完全に男のエゴだけど、でも、悪いことだとは思ってないよ。
だって、恋ってそういうものでしょ。
相手を欲して、追いかけて、力いっぱい抱きしめて、焼き尽くすほどに愛し合う。
それを望まない恋愛なんて、恋愛じゃないと思う。
少なくとも俺は、そう思ってたよ。


俺はあの人を、幸せにしたかった。
ガキだったけど、ガキなりにね。
自信過剰かもしれないし、結局は自分のためかもしれないけど。
でも、岩城さんの笑った顔が見たかったのは本当だよ。
独りよがりで、空回りしてたけどね。

俺があの人を幸せにしたい。
守ってあげたい。
だから、いつも笑っていてほしい。
そばにいてほしい。
岩城さんのためなら、俺はなんだってする覚悟だった。
そのスタンスは、この10年変わってないよ。


うん、そうだよねー。
ホントは、わかってはいるんだ。
あれは俺のひとり相撲だった。

岩城さんは、俺が護らなくちゃいけないほど弱い人じゃない。
繊細で感受性の豊かな、やさしい人なんだけど、軟弱でも優柔不断でもない。
それを理解するのに時間が要ったのは、俺がバカだったから。
目の前にあるものを、見てなかったから。

実は、俺のほうが岩城さんに、いつも支えてもらってる。
あの人の愛に甘えてるのは、俺のほうだよ。
昔も今も、それは変わらない。
素直に認められるようになったのは、わりと最近だけどね。


なんて言うのかな。
あの人の愛は、ものすごく大きくて深い。
あたたかくて、どこまでも豊か。
俺の欠点もすべて包み込んで、さらっと許してくれるんだ。

あれほどひたむきに、真剣に、俺のことだけを考えてくれる人って、世の中に他にいないと思う。
俺が何万回、愛してるって大声で叫ぶより、あの人の慈しむような眼差しひとつのほうが、ずっと雄弁なんだ。
本当に、敵わない。
いや、勝ち負けの問題じゃないんだけど。


だから俺はせめて、岩城さんに相応しい人間でいたいと思う。
あの人がくれる愛に見合うだけの存在でありたい。
岩城京介のパートナーとして恥ずかしくない、本物のいい男になりたい。
これってもう、一生モノのプロジェクトだね!


・・・ってのが、俺の結婚ストーリー。
婚活に関して、なんかアドバイスできるような立場じゃないけど、でもしいて言うなら、そうだね。


全身でぶつかること。

なんか色っぽくない表現だけど、わかるかな。
恋愛って、俺は革命だと思ってるんだ。
ときに相手の一生を左右するくらい、破壊力があるでしょ?
誰かの人生を、根こそぎ変えてしまう。
だから中途半端な気持ちで近づいたら、失礼だと思う。
人生まるごと、責任とる覚悟がなくちゃ!


傷つくのを恐れないこと。

自分が痛い目に遭うのを避けたり、拒絶されることを恐がったりしてたら、永遠に恋愛なんてできないよ。
だってそれって、相手よりも自分が可愛いってことだから。
傷つく覚悟がなかったら、恋は成就しない。
いつも相手の気持ちが、最優先。
まあこれは、俺にとって今でも課題なんだけどね。


それから最後に、全身全霊で与えること!

これは、岩城さんに教わったんだ。
愛するって、相手の幸せを願うことなんだって。
え、あたりまえ?
そうかもしれないけど、でも俺、わかってなかったと思う。
ガキだったから、欲しがってばっかりいた。
今日も、明日も、その次の日も、たゆまず怠らず与えること。
愛を尽くすのに、絶対に手を抜かないこと。
不言実行の岩城さんが、それを態度で示してくれる。
幸せ者だよね、俺!


えーっと、こんなんでいいんだ?
えらそうなこと言ったけど、これ、婚活と関係ないんじゃない?
俺はもちろん、構わないけど。


うん、じゃ、俺はこれで。
今日はこれが最後の仕事だから、うちに帰るよ。
岩城さん、もう帰ってるはずだから。
自分の誕生日はいつも忘れるくせに、俺の誕生日にはちゃんと家にいてくれるんだよね。
そういうとこ、たまんない。
いや、料理はしてないでしょー。
でも赤ワインのボトルくらい、開けててくれてると思うよ。
それとも、シャンパンかな。
薔薇の花束も、あったりするかもしんない。

・・・え、のろけてるかな、俺?





藤乃めい
9 June 2009

香藤くん、34歳のお誕生日おめでとう!
今頃は、岩城さんの腕の中かな・・・?
ますます男っぷりのあがった貴方に、岩城さんも世の中の女性もみんな夢中だと思います(笑)。


2013年10月4日、サイト引越にともない再掲載。初稿を若干修正しています。