LOVE FOOL



Love Fool




岩城さんはときどき 小さな嘘をつく
俺はそれに気づくたびに ちょっとせつなくなる
嫌なんじゃなくて 嬉しいって気持ちなんだけど


たとえば 俺の撮影が押して押して
約束してたディナーに 行けないとき
『わかった、レストランはキャンセルしておく。頑張れよ』
懺悔の祈りを込めて 断りのメールを入れた俺に
岩城さんはさらりと 気遣いを見せてくれる
やっと取れた予約だから 楽しみしてたのに
久しぶりのデートだねって言ったら あんなに嬉しそうだったのに


たとえば ロケ地の天候不順で
俺がスケジュール通りに 帰国できないとき
『気にするな。仕事なんだから、しょうがないじゃないか』
岩城さんの声はあたたかくて 優しくて
寂しさを押し隠した思いやりに 俺の胸が痛む
カレンダーに 俺の帰国日をきっちり書き込んで
仕事を入れずに うちで待っていてくれてるのに


わかってる わかってる
わかってるんだよ


こういうのは嘘とは言わないって 俺だって知ってる
愛する人への心遣いだって ちゃんとわかってるさ
贅沢な悩みだって 他人には言われてるよ


でも俺は どこまでもどこまでも 欲張りなんだ
だから辛い


岩城さんを一生かけて 幸せにしたい
いつでもどんなときでも 最優先の恋人でいたい
そんな中坊みたいなことを 俺はマジで考えてる
昔はこんなふうに 思ったこともなかったのに
歳をとればとるほど 俺は貪欲になる


愛されてるのはわかる 心遣いはすごく嬉しい
岩城さんは先回りして 俺の心の負担を減らしてくれる
それは大人の余裕だし ごく自然な愛情表現だって
いくらバカな俺でも わかってるんだよ


でもでもでも それでも俺は
だけどって ひそかに思ってしまう


それって嘘じゃんか 本当の気持ちじゃないじゃんか
恋人が本音をさらけ出してくれないのが せつないんだよ
本当はがっかりしてるとか さびしいと思ってるとか
気遣いなんていいから もっと我が侭になってほしい
俺をもっともっと 困らせてほしい
もっともっともっと 裸の心を見せてほしい


わかってる わかってる
わかってるんだよ


俺の考えてることは ホントにめちゃくちゃだ
愛してるから 愛されてるからこそあり得ない
岩城さんが本当に 俺の立場をまったく無視して
さびしいとか残念とか 愚痴をこぼしたら
俺はどうしようもなくて ただ立ち往生するだけだろう


愛してるから 岩城さんは赦してくれる
愛してるから 自分自身よりも俺を気遣ってくれる
俺のことを思って やさしい嘘をつく
いや それは嘘と呼んではいけないもので
愛情なんだって わかってるんだよ


バカみたいだって 悪友には言われてる
自惚れてるだけだって 相手にされないときもある
『そういうのは 悩みとは言わねえ』
葛藤してる俺に 呆れ顔をするやつまでいる


そうなんだよ わかってる
俺がいつまでも 子供なだけだって


愛してるから その気持ちが嬉しい
愛してるからこそ その心遣いがせつない
岩城さんは俺にとって どこまでも完璧な恋人で
文句も注文も ありはしないのに


生の感情をぶつけて 我が侭を言ってほしい
やさしい嘘なんていいから むき出しの思いを見せてほしい
堂々めぐりの思い 空回りしてる俺
なんでだろう ときどき焦燥感でたまらなくなる
最愛の恋人に 我慢を強いてるみたいで・・・?


好きだから 気が狂いそうに好きだから
死ぬほど 岩城さんを愛してるから


バカみたいだ 本当にガキみたいだよね
もういい歳の大人なんだから どっしり構えてりゃいいのに


岩城さんが好きだ 10年前よりもずっとずっと
毎日まいにち どんどん好きになる
岩城さんには いつもほんのりと笑っていてほしい
マシュマロみたいに甘い愛でくるんで 抱きしめて
とろけるような幸福感でいっぱいの そんな生活をあげたい


俺ってホントに どこまで欲張りなんだろう?
こうやって腕の中に 岩城さんがいるのに
もっともっともっと どうしようもないことまで
手に入れたいと思ってる 際限なく求めている
岩城さんはとっくに 人生のすべてを俺に預けてくてれるのに


わかってる わかってる
わかってるんだよ


これは贅沢だ 俺の我が侭だ
岩城さんが甘やかすから いけないんだ
バカな思いを抱えて 暴走する俺を
そのあたたかい抱擁で 熱いキスで止めてよ
ほら ねえ・・・





藤乃めい
11 October 2009

本日なんとか、「ゆすらうめ異聞」は開設4周年を迎えました。
ろくに更新もできない今日この頃ですが、それでも応援してくださるたくさんの皆様に、心から感謝しています。
あたりまえですが、『春抱き』は不滅です。
そして『春抱き』がある限り、わたしの岩城さんと香藤くんへの思いも消えることはありません。
細々と、でも執念深く、このサイトも続いていくことでしょう(笑)。
どうぞこれからも、よろしくお願い申し上げます。


2013年10月14日、サイト引越にともない再掲載。初稿を若干修正しています。