帰り花 ― Delicious Moment ―



帰り花 ― Delicious Moment ― 2




「いい、挿れるよ?」
俺の声はもう、隠しようのない欲情にかすれていた。
岩城さんの火照った身体を抱き寄せて、キスするみたいに向かい合って座る。
かすかに、汗のにおいがした。
淫猥にうごめく岩城さんの後孔に、俺はペニスの先端を当てた。
限界ギリギリで、先走りがこぼれ出す。
「あ・・・か、香藤・・・っ」
岩城さんが、喉を鳴らした。
同時に俺は、ぐいっと腰を押し込んだ。
「んんっ!」
「・・・はう・・・っ」
久しぶりに繋がった、その瞬間。
燃えるように熱い孔内が狂喜して、俺のペニスに巻きついた。
岩城さんの最奥を目指して、ぎゅっと締めつける柔襞を切り拓く。
「・・・んあ・・・ふぅっ」
俺にしがみついていた両腕を、ほんの少しだけ緩めて。
岩城さんは至近距離で、俺の顔をじっと見つめた。
欲情にまみれた黒い瞳。
目じりがうす赤く染まって、なんとも色っぽい。
「おかえり、香藤」
かすれた声でそう言って、岩城さんは婉然と笑った。
「・・・ぷっ」
セックスの真っ最中に、妙に落ち着きはらった口調。
それが可笑しくて、俺は思わず噴き出していた。
「あはは、ただいま!」
俺は岩城さんの腰を掴んで、上下に揺らした。
ただいま、の挨拶がわり。
「・・・あんっ・・・」
ビンビンに勃起した俺に抉られて、岩城さんが嬌声を上げる。
「・・・岩城さんの、ここ・・・っ」
「んん・・・っ」
しっとり汗ばんだ胸を擦りつけて、岩城さんが先を促した。
尖った乳首が、俺のそれをくすぐるように愛撫する。
「俺が帰ってきて、すっごく嬉しいんだね」
「・・・はんっ」
「ずっと・・・ひとり寝で、寂しかった・・・っ?」
甘えるようにあえかな喘ぎ声に、俺はいっそう煽られた。
「・・・ったり・・・まえ・・・ろっ」
深く、もっと深く。
俺は渾身の力を込めて、岩城さんの後孔を侵した。
「たまんないよ、岩城さん・・・っ」
奇跡の恋人が、俺に応えて全身を震わせた。
「・・・もっと・・・か、香藤・・・っ」
熱いささやき、熱い肌。
内襞が窄まっては絡まり、愛おしむように俺を包み込む。
貪欲に、飽くことなく俺を奪おうとする。
「い・・・いいっ・・・」
甲高い悲鳴が、甘く甘く響く。
俺がそぼ濡れた岩城さんのペニスを扱くと、それはあっという間に膨張した。
ふるふると揺れて、解放を待っている。
「いって、岩城さん!」
呪文のように耳元に告げると、岩城さんはせつなげに唇を震わせた。
「ね・・・!」
片手で擦りあげ、苛めるみたいに先端を爪で引っ掻く。
「・・・んあぁっ・・・」
それからは、ほんの数秒。
迸る快楽に肢体を震わせながら、岩城さんはあっけなく達した。



「岩城さん、かわいい・・・」
息を弾ませながら、岩城さんが俺を見上げた。
「・・・おまえ───」
「うん?」
こつんと額をあわせて、啄ばむようなキスを交わした。
岩城さんの最奥に、もちろん俺は深々と刺さったまま。
ドクン、ドクンと血潮が疼く。
それを体内から感じてるせいか、岩城さんの肌はそそけ立っていた。
「・・・安心って・・・おかしい、かな」
岩城さんは首をかしげて、俺の手を取った。
指をからめ合わせて、それから自分の胸に導く。
おねだりに頷いて、俺は岩城さんの乳首をくすぐった。
「・・・んんっ」
「安心って、なにが?」
俺の手のひらを抱きこみながら、岩城さんは笑った。
照れ混じりの、でもとっても艶っぽい微笑。
俺は思わず、紅潮したその頬にキスを落とした。
「おまえと、こうしてると・・・な」
「うん?」
空いたほうの手で、俺は岩城さんの股間を弄った。
俺を銜え込んで離さない後孔に、慰めに触れる。
「・・・ん・・・」
しなやかに仰け反って、岩城さんがほうっと息を漏らした。
それを合図に、俺はほころぶ蕾をなぞり、そっと指を滑り込ませた。
「あく・・・っ」
火傷しそうに熱くてじっとり湿ってる。
ぴっちりペニスを呑み込んだ後孔に、さらに俺の指。
さすがに、かなり狭い。
「・・・俺と、セックスしてると?」
「ゆ・・・指っ」
「痛い?」
極限まで拡がった後孔は震えながらも、しっとりと俺のペニスと指を包み込んでいた。
きつく侵される悦びを、その蠕動が伝えている。
「・・・いや、痛くは・・・で、も・・・っ」
「でも?」
ぐずる子供をあやすように、俺は岩城さんの髪を撫でた。
「・・・ちょっ・・・待てって」
岩城さんは苦笑して、内襞でいたずらを始めた俺の指を押さえつけた。
「最後まで、言わせろ」
「うん?」
「おまえと、こうやって・・・」
「うん?」
「抱き合ってるときが、いちばん嬉しい・・・って」
「・・・へ?」
俺はびっくりして、岩城さんを見返した。
「安心するんだ。なんていうか───」
赤く染まった顔を上げて、岩城さんはやわらかに笑った。
「俺がおまえの居場所なんだって、そう思えるから」
ほそい指先が、愛おしそうに俺の頬を撫でた。
「岩城さん・・・」
不意打ちみたいな愛の言葉。
さらりと差し出された岩城さんの心に、俺は絶句した。
「好きだ、香藤」
いつも帰ってきてくれてありがとう。
耳元でそう囁いて、岩城さんはゆるやかに俺を抱きしめた。
「好きだ・・・」
───この人は、なんだってこんなに・・・!!
「・・・岩城さん・・・っ」
「ふぁ・・・んんっ」
骨が軋むほど強く、俺は岩城さんを抱き返した。
その拍子に、俺のペニスがさらに深く岩城さんを貫いた。
「・・・かと・・・ぉっ」
かすれた悲鳴が上がる。
白い項にかぶりついて、俺は抽挿を始めた。
「・・・んん・・・はあっ」
岩城さんは俺を止めない。
目を閉じて、喘ぎながら俺の肩にしがみついた。
縦横無尽に、俺は岩城さんを貪った。
深く浅く抉り、最奥まで柔襞を擦りあげる。
「んはぁっ・・・!」
股間を俺の腰に押しつけ、岩城さんが悶えた。
俺はその細腰を両手で抱え直した。
白い太腿にも脇腹にも、くっきりと指の痕がつく。
「かとぉ・・・っ」
「あ・・・んまり、驚かせないでよ・・・!」
仰け反って震える岩城さんには、もう俺の声は聞こえてないかもしれない。
それでも俺は、言わずにはいられなかった。
───最高にきれいな俺の恋人。
容姿もそうだけど、眩しいほどに美しいのはその心だ。
「・・・どう・・・すればっ」
岩城さんの気持ちに、どう応えればいいんだろう。
愛すれば愛するほど、わからなくなる。
「愛してるよ、岩城さん・・・!」
俺以上に岩城さんを愛してる人間なんて、この世にいないのに。
「・・・ああ・・・香藤・・・っ」
俺の言葉に反応して、岩城さんが目を開けた。
漆黒の瞳には、もちろん俺しか映っていない。
いつだって岩城さんは、俺しか見ていない。
「かと・・・」
肩で息をしながら、うっとりと俺の名前を呼ぶ岩城さん。
愛しくて、どうしようもなく愛しくて。
「いくよ・・・!」
俺はぐっと腰を引いて、律動を早めた。



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「・・・香藤───」
「うん?」
リビングにはすでに夕闇が迫っていた。
冬の午後は短い。
窓の外はきっともう、底冷えの寒さだろう。
この部屋はぽかぽか暖かくて、心地いいけど。



「何時だ?」
俺の腕の中で目覚めた岩城さんが、眠たげに聞いた。
「えっと・・・5時ちょっと前」
薄闇の向こうのデジタル表示を読むと、岩城さんが苦笑した。
「買い物や洗濯、しておきたかったんだけどな」
「今からすればいいじゃん?」
「できるか、バカ」
「えー、なんで?」
ブランケットを剥いで、岩城さんはのろのろと裸の半身を起こした。
俺の髪を片手ですきながら、ため息まじりに言う。
「何時間、おまえにつきあったと思ってるんだ。へとへとで、もう何もできそうにない」
「つきあうって・・・」
俺はちょっと口を尖らせてみせた。
「やな言い方。俺だけが欲しがったわけー?」
両腕を伸ばして、岩城さんの顔を引き寄せる。
「・・・そういう意味じゃ・・・」
岩城さんは逆らわず、俺の上に身を屈めた。
真上から降ってくる優しいキス。
うっすら目を開けたまま、俺たちは口づけを繰り返した。
「・・・香藤」
「うん?」
「やめよう、な」
頬を染めて、岩城さんが首を振った。
「・・・また、したくなっちゃう?」
隠すものもない岩城さんの股間は、緩やかな反応を見せていた。
───俺のペニスも、だけど。
「・・・だって」
「だって?」
「二ヶ月ぶりだよ?」
「そうだけどな・・・」
岩城さんは笑って、するりと俺の抱擁から抜け出した。
一糸もまとわない綺麗な裸体。
そのぬめるような肌を、俺は感嘆の思いで眺めた。
「きれいだよ、岩城さん・・・」
床に散らばった下着を拾い上げて、岩城さんが振り返る。
艶を含んだ微笑。
ちょっとだけ意地悪で、とても綺麗だ。
「もう、なにも出ないぞ。さんざん絞り取られたからな」
「なに言ってんだか」
俺は岩城さんに続いて、ぴょんとソファから立ち上がった。
「でも、間に合ってよかったよ」
「なにがだ?」
「正月。年内に帰って来れるかどうか、微妙だったからさ」
「ああ・・・そうだな」
「やっぱり正月くらい、日本で迎えたいもんね」
ふと、岩城さんが嘆息した。
「香藤、そのことなんだけどな」
曇ったその表情に、俺は事情を察して頷いた。
「・・・仕事? 元旦から?」
なるべく軽く言ったつもりだったけど。
やっぱり、咎めるように聞こえたかもしれない。
「すまん。大晦日からずっと、生放送があって・・・」
「・・・うん、そっか」
しょうがないね、と。
笑顔で言えただけ、我ながら成長したと思う。
岩城さんのいない年越しなんて、寂しすぎる。
でも、我慢。
「仕事なんだもん、謝らないで」
岩城さんのほうがもっとずっと、落胆してるに決まってるから。
「次はいつ・・・?」
まっすぐな黒い髪をかき上げて、俺はそっと聞いた。
「それは、どういう意味だ?」
上目遣いに俺を見て、岩城さんがくすりと笑った。
「どういう意味って、どういう意味さ?」
「さあな。おまえがいちばん良く知ってるんじゃないか」
「えー、なにそれー」
岩城さんを抱き寄せると、ふわりと甘酸っぱいにおいがした。
とろとろに融け合った時間の名残り。
「・・・汗くさいな」
くんくんと嗅いで、岩城さんは顔をしかめた。
「あは、そうかな」
「・・・香藤」
「うん?」
「あのな・・・1月中旬までは、ちょっと休めないと思う」
「そっか」
当分『次』はない、ってことらしい。
今日みたいなまったりセックスは、しばらくお預け。
「迷惑をかけて、すまない」
「いいって、もう!」
岩城さんの手を取って、俺はにっこり笑った。
「そんなのはお互い様でしょ」
「でも」
「俺だって、やっと海外ロケから帰って来たところだし。気にしないの」
「そうだな。悪いが、お義母さんたちには───」
「大丈夫。岩城さんがどんだけ忙しいか、おふくろたちは分かってるよ。俺がその分、早めに帰って親孝行するから」
「・・・ああ。よろしく言っておいてくれ」
ほっとした表情を見せる岩城さんの頬に、俺はキスをした。
「じゃ、行こっか」
「どこに?」
「風呂!」
笑い出した岩城さんの腕を引いて、俺は勢い良くリビングのドアを開けた。





藤乃めい
28 December 2009

久しぶりの本編寄りのお話は、思いがけず長編になりました。 といっても、やってるだけなんですが・・・(苦笑)。
落ち着いたオトナのハッピーらぶらぶを、楽しんでいただければ幸いです。
みなさま、どうぞ良いお年をお迎えください。 そしてこれからも、当サイトをどうぞ宜しくお願い申し上げます。


2013年11月16日、サイト引越にともない再掲載。初稿を若干修正しています。