Little ambivalence

Little ambivalence 香藤洋二のアンビヴァレンス




そういえば この時期になるとさ
岩城さんは目に見えて そわそわするんだよね
うん だいたい五月の後半くらいから
俺に気づかれないように なるべく自然に
何気なーく 振る舞ってるつもりみたいだけど
もう バレバレだって!
そういう隠しごと 本当にヘタなんだよね
普段あれだけ 演技力のある役者なのに
なんでなのか マジで不思議
ホント 可愛くってたまんないよ



いつもは買わない ファッション誌を読んでたり
珍しくも 二階のPCの前に座り込んで
なんかいろいろ見てるんだよ
眉間にしわを寄せて カタカタ検索してたりね
そうそう たぶん俺じゃなくても
絶対に気づいちゃうレベルだと思う
―――うん そう
もちろん俺は 知らんぷり
何をしてるかなんてわかってるんだ
わかってるから 気づかないふりをするんだけど
でも ね―――
そういうのって けっこう難しい
六月九日へのカウントダウン
思案顔でため息をつく 岩城さんを見ながら
心の底で ものすごーく葛藤するわけ
言おうか 言うまいか
岩城さんが内心 ほっとするだろうひと言
今年こそ言おうか やめようか
だって実際 どうってことないからさ
俺も岩城さんも そんなことはとっくにわかってるんだ
言っても全然 オッケーなんだよ



『プレゼントはいいよ もうやめよう?』



時計だったり Tシャツだったり
花束だったり ワインだったり
岩城さんが 俺のために選んでくれたものなら
なんだってホントに 最高に嬉しいけど
毎年のプレゼント選びが プレッシャーになってる
睡眠時間を削ってまで いろいろ迷いまくって
それがわかるから やっぱり俺
ちょっとだけ 気が咎めるんだよね・・・
仕事が忙しすぎて なにも用意できなくって
ごめんなって すまなそうに謝ってくれる
一緒にいられなくて悪いって 電話をくれる
それだけでも俺には 最高の誕生日プレゼントなんだけど



だから だからさ
余計にすっごく思うんだよね
毎年あれこれ 岩城さんが真剣に悩んでるのを見ると
もういいよって
俺たちもう そういうの必要ないよねって
その日を心にかけてもらえる
それで十分すぎるほど 幸せなんだから
笑ってさ 普通に言えばいいと思うんだ



『岩城さんがそばにいてくれるだけで 俺は幸せだから』



それは本心で 掛け値なしの真実だ
岩城さんだってきっと 同じように思ってるはず
せめて誕生日と 結婚記念日は一緒にいようと
必死でスケジュールを調整してくれる
それがいちばん 嬉しいから
岩城さんがいてくれる
それが俺には 最高のプレゼントだから



『今さら何か 欲しいわけじゃないしね』



喉まで出かかった その言葉
言おうとして毎年 思いとどまるのにも
もちろん 理由があるんだよね・・・
言いたくて 言いあぐねて
バカみたいだって 自分でも思うけど
だって だって だってさ?
考えてもみてよ
それを言ってしまったら 俺は―――





そう 俺が!
この俺が 困るんだよ!
だってそうでしょ?
俺が岩城さんに プレゼントをあげられなくなるじゃない!?
誕生日に 結婚記念日
バレンタインにも クリスマスにも
ほかにも山ほど 大事な記念日があるんだよ
そのたびに なにを贈ろうか
どうやってびっくりさせようか
いっぱいいっぱい考えて わくわくしながら
企画して 準備して 根回しして
驚いたり 喜んだりする岩城さんの顔を想像して
あれこれ妄想にふける
楽しくて 楽しくて 楽しくてたまらない
―――それをやめるなんて 無理!
絶対無理!!



『やめようと言ったのはおまえだろう?』



・・・だよねえ・・・
俺は相変わらず いろいろあげたいけど
岩城さんからの贈り物はいらない なんて
そんなの通用するわけがない
岩城さんに 納得してもらえるはずがない
だいいち そんなこと言ったら
岩城さん 落ち込んじゃうよ―――
無理 無理
絶対無理!
だから 絶対に言えない
うー・・・



だから俺は 今年もなにも言わない
言えない 言わない 言いたくない
・・・どれなんだろう?
なにも気づいてないふりをして にっこり笑って
悩みに悩んだ末に 迷いに迷った挙句
岩城さんが なにをくれるのか
ドキドキしながら
ハラハラしながら
ちょっとだけ ごめんねって思いながら
今日を迎えるんだ・・・





藤乃めい
9 June 2011

36歳かあ・・・まさに男ざかりっていうか、美味しい年代ですね。
岩城さんはきっと 年々ますます光り輝く香藤くんから 
目が離せないだろうと思います。
生意気なチャラいガキ(笑)から、日本一のいい男へ。
・・・う〜ん、大したもんだ。
お幸せに、なんて今さらわたしが言わなくても、
勝手にいつも超ハッピーな二人ですね(笑)。
ちくしょ〜、羨ましいぜ!


2014年01月24日、サイト引越により再掲載。初稿(もともとはブログで発表)を若干修正・加筆しました。