さくらいろの戯言(たわごと)

桜色の戯言(たわごと)




そういえば テレビで見たよ
東京では今日
桜の満開宣言が出たんだってね
普段はそんなの
あんまり気にしないんだけど
今年はなんだか
―――不思議な気持ちだった

ほら俺たち
いろいろあったじゃない
それでもなお 悠然と
季節はめぐって
こうやって暖かな春の日差しが
ちゃんと降りそそぐんだから
不思議っていうか
凄いと思った
太陽の恵みが
やって来ないことはないんだから
こんなときなのに
それでも 俺は
淡い桜色のあの花を見て
きれいだなって思うんだから



桜って不思議だ
いつもの街角
いつもの道すがら
誰かの家の庭先
ありふれた日常
毎日なにげなく
慌ただしく通りすぎるそこに
桜の花がほころんでいると
びっくりしてしまう

あれ こんなところに
桜があったっけ―――
あらためて気づく
新鮮な感動
たぶん毎年
それを繰り返してるんだろうな
ふだんは見えていても
見てないんだね
見ているのに
忘れてしまうんだね



でね
どうしても 俺は
桜の木を見ながら
岩城さんを想像してしまう
何を見てもおまえは俺にたとえたがるって
岩城さんは 笑って
とりあってくれないけど
だけどさ
しょうがないじゃない

凛とした 日本の木であること
ほんの僅かだけ朱を差した
限りなく白に近い花びら
楚々とした
シンプルな美しさ
音もなく
香りもなく
とらえどころのない
頼りなげな花なのに
春のほんの短い時間だけ
一斉に ひそやかな花を咲かせて
俺の心を奪う
そっと俺の視界を埋め尽くし
いつの間にか 俺を支配する

あの淡い淡い
小さな花びらが
ただ 音もなく咲いて
はらはらと散って
そのたびに
俺は翻弄されるんだ
美しくて はかなくて
幽玄で おそろしい
そのうち吸い込まれてしまいそうな―――



馬鹿なこと言ってるね 俺
なんかさ
思うんだけど
桜の花って
恋する男を詩人にするんだよ



―――なんちゃって
ほら そうやってすぐ笑うんだから
けっこう本気で言ってるんだよ
わかってる?





藤乃めい
2011年4月6日



2014年01月19日、サイト引越により再掲載。初稿(もともとはブログで発表)を若干修正・加筆しました。