温度差

温度差




最近ふと思ったんだよね。
俺って大丈夫なのかなって。
ちゃんと、岩城さんに愛情表現してんのかなって。



えっと―――何ていうかな。
今さらなんだけど、岩城さんって綺麗な人でしょう。
見た目ももちろんだけど、心根がさ。
不惑を過ぎて、美しさが研ぎ澄まされて来たっていうか。
ぶれない魂が、たまに眩しすぎるというか。
そんな凄い人と一緒に暮らして、もう10年以上になる。
いつでも手を伸ばせば、そこにいてくれる存在。
岩城さんが、笑ってくれるのが当然の毎日。
幸せだよ。
これ以上ないくらい幸せだと思ってる。



―――だから、さ。
慣れてしまってるんじゃないか、って思うんだよ。
岩城さんの存在に。
そんなつもりないけど、でももしかして、ってさ。
麻痺しちゃってるんじゃないかって。
岩城さんが、俺を好きでいてくれることに。
毎日そりゃ幸せだけど、それが日常になってるから。
好きだ、愛してるって、もちろん口に出してる。
あの笑顔を向けられるたびに、そう言わずにはいられない。
あの人を腕に抱いて、心臓がバクバクしないことなんて一度もない。
ないない、あり得ない!
会えない時もけっこうあるけど、電話やメールが繋いでくれる。
連絡すらできないときも、心の距離は近いまま。
俺たちはずっと繋がってる。
いつも、いつも、いつも。
岩城さんは、俺のハートのど真ん中にいる。
本当に、好きなんだ。
これ以上ないくらい惚れてる。



―――でも、なんか。
それだけでいいのか、って思うんだよなあ。
それで本当に十分なんだろうかって。
もっと他に、もっともっと、なんていうの?
出来ることがあるんじゃないかって。
不安、じゃないよ。
俺たちの関係について、心配してるわけじゃない。
そういうのとは違うんだ。



だって―――岩城さんは凄い。
もの凄い人だよ。
あの人の愛情は本当に深くて、熱くて、無尽蔵なんだ。
滾々と湧き出る香(かぐわ)しい清水。
旅人を、いや俺を。
俺だけを癒すために。
ひたすらに差し出される無垢な愛情。
なんであの人は、ああいう愛しかたができるんだろう。
実際、奇跡だよね。
さらりと気負うことなく、でも全身全霊をかけて。
あんな風に誰かを愛せる人を、俺は他に知らない。
千の囁きよりも、万の赤い薔薇よりも。
岩城さんのくれる心のほうが、はるかに尊いと思う。
本当に敵わない。
あれ以上の愛情表現なんて、世の中にない。
あり得ないとマジで思う。



―――だから、さ。
俺はときどき思うんだよ。
ひょっとして、温度差があるんじゃないかって。
岩城さんが俺にくれる気持ち。
それに見合うだけの愛を、誠意を、情熱を。
俺は返せているんだろうかって。
熱い血潮の通った柔らかな心を、さ。
そっくりそのまま捧げられて、俺は震えてしまうんだ。
怖いくらい幸せ。
幸せすぎて怖い。
岩城さんのありったけに、俺はそれ以上のありったけで応えているだろうか。
心から愛してるし、何よりも大事にしてる。
そう誓う言葉に偽りはないよ、もちろん。
でも、それで十分なんだろうか。
このままでいいんだろうか。
どれだけキスしても、抱き合っても、まだ足りない気がする。
もっともっと、できる気がするんだ。
もっともっと、やることがあるはずなんだ。
岩城さんの愛の深さに、俺はまだまだ届かない。
もらうばっかりとは言わないけど、まだ先がある気がするんだ。
だから、いつも思う。
岩城さんに追いつきたい。
あの人の愛に相応しい男になりたい。
あの迸る熱情をゆったり受け止め、より多くを返してあげられる男でありたい。
もっと大きな男でありたい。
もっともっと、岩城さんにとってたしかな存在でありたい。
そのために俺は、ずっともがき続けると思う。
岩城さんに恥じない自分でいるために。



うん―――だから、さ。
好きだってこと。
結局、そう言うしかないんだよね。
好きだ。
好きだ。
愛してる。
去年よりも一年前よりも、今日の岩城さんが好きだ。
そう毎日いっぱい言って、毎日いっぱい抱きしめて。
ひとつひとつのキス。
毎日の抱擁。
それを大事にしていきたい。
そうやって愛の欠片を積み重ねていくことしか、俺にはできないから。
いつか、きっといつか。
岩城さんの想いに相応しい俺になれると、信じて―――。





藤乃めい
27 January 2012

2014年03月08日、サイト引越により再掲載。初稿(もともとはブログで発表)を若干修正・加筆しました。
まもなく新刊『春を抱いていた ALIVE』1巻発売。この日をどれだけ待ったことか・・・!