第五章 (2)




「キョウスケ―――」
優しい声が、耳元で聞こえた。
深いまどろみから引き戻される、そんな感覚。
「ん・・・」
「キョウスケ、起きろ」
ぼんやりと目を開けると、クラウディオが小さく笑った。
唇のすぐに触れそうな距離感。
「・・・どうした?」
俺の声は、まったくかすれていた。
彼の首にのろのろと腕を絡めて、軽いキスを交わす。
狭く質素なベッドの上。
壁が迫ってくるような、こじんまりとした部屋。
「あれ・・・」
ややあって脳が覚醒し、俺はここが船上であることを思い出した。
窓の外は、漆黒の闇。
「・・・夜?」
気がつけば、船は穏やかに波間に揺れている感じだった。
俺の船酔いも、いつの間にか治まっている。
「一昼夜、ぐったり寝ていたな」
俺の髪を撫でながら、クラウディオが静かに言った。
「すまん・・・」
不甲斐なさに、俺は苦笑した。
「迷惑をかけたな」
「謝るな。おまえを強引に船に乗せたのは俺だ。あれほどの嵐では、誰でも胸が悪くなる」
クラウディオは笑って、俺の腕を引いた。
「甲板に出よう。見せたいものがある」
俺は頷いて、ゆらりと立ち上がった。



☆ ☆ ☆



「うわ・・・」
青いシフォンのドレスを着せられて甲板に上がった俺は、思わず感嘆の声を漏らした。
見渡す限り、深い藍色を湛(たた)えた世界。
怒りを鎮めた大海原が、穏やかにたゆたっていた。
はるかな水平線まで、何ひとつ視界を遮るものがない。
天には、大海を煌々と照らす月。
冴え冴えとした青白い光が、いっそ眩しいほどだった。
蒼い月光を浴びて、打ち寄せる波が銀色に彩りを変える。
潮騒すら、心なしか荘厳に響いた。
恐ろしいほどに美しく、幻想的な夜―――。



背後から俺を抱きかかえていたクラウディオが、ぽつりと囁いた。
「この世のものとは、思えないだろう?」
俺は言葉もなく頷いた。
「・・・美しすぎて、胸が騒ぐ」
俺の項にキスを落としながら、恋人が苦笑した。
「おい・・・」
「なぜだろうな。禍々しい予感がする―――」
大きな熱い手が、俺の顎を捉えた。
振り返りざま、せわしないくちづけが降って来る。
「んふ・・・っ」
情事の始まりを告げる、濃厚なキス。
昂ぶった下半身が、俺の尻にぎゅっと押しつけられた。
「―――おまえが欲しい」
「ば・・・っ」
抗おうとした俺は、クラウディオの切迫した求めに、ふと動きを止めた。
・・・なぜなのか、わからないが。
不安を押し殺すかのような声だった。
こんなクラウディオは、見たことがない。
俺は深く息を吐いて、静かに言った。
「腕を緩めろ、クラウディオ。・・・おまえの顔が見たい」
ゆるゆると、彼の腕から力が抜ける。
クラウディオの抱擁の中で身体を反転させて、俺は恋人を見上げた。
「・・・おまえらしくない。俺はここに、いるぞ?」
それだけ言って、俺はクラウディオをしっかりと抱きしめた。
不安があるのなら、取り除いてやりたかった。
「ああ・・・」
吐息のような声が返って来る。
熱い舌が、俺の首筋をねっとりと伝った。
「んんっ・・・」
―――もう言葉は、必要なかった。
俺は目を瞑って、クラウディオの愛撫に身を任せた。



☆ ☆ ☆



「ああ・・・ひあぁっ・・・はぁん・・・っ」
クラウディオの舌が、俺の下半身を這い回っていた。
やわやわと熱いものが、くすぐるように俺の肛門を刺激する。
俺の入口をこじ開け、舐めほぐし、べっとりと濡らしては去っていく。
柔襞がそれをもどかしがって、蠢くのがわかった。
ピチャリと濡れた音が、卑猥に響く。
「んは・・・っあぁ・・・くっ・・・」
そのすべての感覚に、俺は肌を粟立てた。
帆船のマストに背中を擦りつけ、大股を開き、身悶えしながら。
俺は両手で、クラウディオの頭をぎゅっとそこへ押しつけた。
腰が疼き、震える。
喘ぎ声を、どうしても止められない―――。



とんでもなく破廉恥なことをしている、という自覚はあった。
月夜の海を行く、帆船の上で。
俺は求められるままに、浅ましく欲情した身体を開いていた。
甲板のどこかに舵を握る男たちがいると、知らないわけではなかった。
誰に見られても、文句の言えない状況だったが。
それでも身体に火がついて、もうどうしようもなかった。
クラウディオが欲しくて、気が狂いそうだった。



クラウディオの指が、ずぶりと俺の肛内に入ってきた。
「はうっん・・・あっあっ・・・」
早急に俺の中を掻き回し、震える内襞を乱暴に擦りあげる。
慣れた指先が、俺を一気に追い立てる。
肌がざわめき、俺は涙を零して身をよじった。
「もっ・・・ク・・・ラウディオ・・・ッ」
ふるえる指を伸ばして、恋人の下半身を探った。
すぐそこに、滾(たぎ)るペニスがあるはずなのに。
手の届かないもどかしさに、神経が焼き切れそうだった。
「欲しいか、キョウスケ?」
顔を上げたクラウディオが、したり顔で囁く。
傲慢な男の指が何本も突き入れられ、俺の中を引っかき回した。
「あんっ・・・ふああぁ・・・っ」
脳天まで突き抜けるような快感に、俺は嬌声をあげた。
「は、早く・・・っ」
虚勢を張ることすらできず、俺は目を閉じたまま頷いた。
欲しい。
おまえが欲しい。
今すぐ、そこに、挿れて欲しい。
そう叫び、懇願しそうになるのを、ようやく堪える。
「ほら・・・」
クラウディオが、ついと手を指し伸ばした。
朦朧としたまま、俺は陶然とその手を握りしめた。
「え・・・っ」
ぐいと、その腕を強く引かれて。
ふらりと立ち上がった俺の身体は、次の瞬間、強引に反転されていた。
さらさらと音を立ててシフォン生地がすべり落ち、俺の下半身を包み隠す。
グラリ、と船が揺れた。
「あ・・・っ」
平衡感覚を失いつつあった俺は、目の前のマストにしがみついた。
涙で霞んだ視界の向こうに、海に映る月が揺れた。



「そうだ。そこに掴まっていろ―――」
熱い息を吐きながら、クラウディオが俺の背中に覆いかぶさった。
ドレスがたくし上げられ、俺の下半身がむき出しになる。
宥めるように、尻にひとつ軽いキスを落としてから。
彼は確かめるように、蠢く肛門をするりと撫でた。
「・・・ぁあっ・・・」
それだけで、肌がいっそう火照った。
「挿れるぞ」
低い声に、頷く隙もなく。
クラウディオが俺の腰を掴み、一気に最奥まで貫いた。
「・・・んぁあああぁっ・・・っ!」
熱い楔が、きつく捻じ込まれる。
こらえきれずに、俺は甘ったるい悲鳴を上げた。
凄まじく重量感のあるものが、俺の中をぐいぐいと押し広げる。
ようやく与えられた充実のペニスに、熱い柔襞がねっとりと絡みついた。
「んはあぁ・・・っ」
わずかな疼痛と、それをはるかに凌ぐ恍惚感。
俺の中のクラウディオ。
浅い息を繰り返しながら、俺はもがき喘いだ。
クラウディオはそのまま、激しい抽挿を始めた。
灼熱が俺の肛内を容赦なく擦りあげ、奥を突き、引っかき回す。
「ふぁ・・・んんっ・・・はあぁっん・・・」
俺は全身を震わせて、クラウディオを受け止めた。
「キョ・・・スケ・・・ッ」
大きな手のひらが、ドレスを掻き分けて俺の乳首をまさぐる。
「くぅん・・・っ」
しこった突起を乱暴に弾かれて、俺は身体を仰け反らせた。
深く深く突き入れられ、肛内を奥深くまで抉られる。
繋がったそこが燃えるようだった。
腰が引かれるたびに、熱を追いかけるように内襞が収縮する。
「・・・いいっ・・・んはあっ・・・っ」
クラウディオの律動に合わせて、俺は夢中で腰を振った。
息もつけない酩酊感。
全身が痙攣するほどの快感に、気が遠くなりそうだった。
クラウディオが、俺の肩口に噛みつくようなキスをする。
はしたない身体は、彼に与えられるすべてを貪欲に欲して、歓喜に震えた。
「クラ・・・ディオッ・・・はぁあっ・・・もっとぉ・・・っ」
帆船が、波間に揺れた。
クラウディオが腰を叩きつけ、いっそう激しく俺の肛門を蹂躙する。
俺はそのたびに、必死でマストにすがりついた。
「ぁあんっ・・・ひぃあっ・・・んんっ」
とめどなく、俺は淫らな声をあげ続けた。
自分の身体の反応に、羞恥で目眩がしそうだった。
クラウディオの熱が、俺をどこまでも狂わせる―――。



「んぐっ・・・ふああぁ・・・っ」
容赦なく追い上げられて、忙しなく高みに導かれて。
極限まで背を仰け反らせて、俺はひときわ嬌声をあげた。
全身が硬直するような、激しい絶頂感。
「んっ・・・キョ・・・スケッ」
わななく俺の身体をかき抱(いだ)きながら、クラウディオが勢いよく弾けた。
俺の奥深くに、熱いしぶきが叩きつけられる。
「ひあぁ・・・っ」
断末魔のように暴れるペニスが、震える内襞を蹂躙した。
「ク・・・ディオ・・・ッ」
脚から力が、頼りなく抜けていく。
―――立っていられるのが、不思議なほどだった。
後ろから回ってきた手が、俺の顎を捉える。
「あふ・・・んんっ」
振り返りざま、荒い吐息をまるで奪われるように、唇が重ねられた。
頭がかすむような、濃厚なキス。
俺は肩で息をしながら、クラウディオの腕の中で陶然とくちづけに酔った。



☆ ☆ ☆



冴え冴えとした月は、いつの間にか位置を変えていた。
―――風が冷たいと、ようやく少し感じるようになったとき。
帆船がまた、ゆるやかに横に揺れた。
「あ・・・っ」
後ろから支える腕に、ぎゅっと力が入る。
俺の肛門を刺し貫いたままのペニスに、ふっと力が漲(みなぎ)った。
「また・・・?」
どうしようもなく、頬が紅潮する。
「おまえのここは、気持ちがいいんだ」
クラウディオが苦笑した。
意地悪な指先が、俺たちの繋がっているところをぐるりと撫でる。
「・・・ぁあっ・・・」
わずかなシフォンの衣擦れの音。
「ひどく素直で、貪欲だしな」
彼を銜え込んで離さない襞をねぎらうように、指がそこを行き来する。
「んん・・・ばか・・・」
背筋にゾクリと、快感が走った。
軽く上半身を仰け反らせて、俺は頭をクラウディオの肩に乗せた。



ぴったりと身体を重ねたまま。
弄(まさぐ)る指が俺の入口をつつき、ゆっくりとこじ開ける。
肛門がめくり上がるような生々しい感触に、俺は息を呑んだ。
「痛いか・・・?」
あやすような小さなキスが、俺の項に落ちてきた。
まるで新しい遊びを思いついた、いたずらな子供のように。
クラウディオはそろそろと、慎重に指を進めた。
再び熱を持ち始めたペニスに添わせるように、指が一本、俺の中に差し込まれる。
「・・・んあぁっ・・・」
そこがいっそう、押し拡げられる。
甘い疼痛が、背筋をぞくりと這い上がった。
俺は目を閉じて、震える身体の力を抜いた。
―――もうそれ以上、立ってはいられなくて。
マストを抱いたまま、俺はずるずると崩折れて、甲板に両膝をついた。
くすりと、背後から小さな笑みが漏れる。
睨みつけてやりたかったが、全身が快感に侵されていた。
クラウディオの空いている手が、俺の胸をくまなく愛撫する。
「もぉ・・・やっ・・・んぁあ・・・」
「おまえの中は、悦んでいるようだが・・・?」
からかうような、クラウディオの声。
「・・・バカッ」
悔しまぎれに悪態をつきながら、俺は彼のために、彼が動きやすいように、ゆっくりと腰を掲げた。



四つんばいの俺を、再度しっかりと抱きかかえ直して。
クラウディオは指をもう一本、俺の肛門に差し入れた。
捻じ込まれた二本の指がペニスに添えられ、嬉々として絡みつく柔襞を撫でこする。
「いいか、キョウスケ」
俺は夢中で、首を振った。
「・・・こ、こんなっ・・・」
「まだ、銜えられそうだぞ?」
クラウディオがゆるゆると腰を揺すり、俺の肛門に擦りつける。
そのたびに熱いペニスが、指では届かない最奥を突き上げた。
船が揺れるたびに、愛撫の角度が変わる。
「んん・・・んはぁあっ・・・」
入口から身体のいちばん奥まで、濃厚な愛撫を同時にほどこされて。
俺は思いきり腰をくねらせて、淫らに喘いだ。
「ふあぁっ・・・クラ・・・ディオ・・・ッ」
甘ったるいかすれ声を、止められない。
「いい声だ」
指を俺の中に残したまま、クラウディオがぎりぎりまで腰を引いた。
「行くぞ・・・」
次の瞬間、灼熱が深々と俺を抉る。
「んああぁ・・・っ」
そのまま彼は、容赦なく俺を蹂躙した。
息を奪うほどの激しい抜き差しに、俺は乱れて涙をこぼした。
四肢が震えて、両腕で上半身を支えていることすらできない。
「ひぅんんっ・・・あっ・・・いぃっ・・・んはぁあ・・・っ」
俺は肘を甲板に落として、腕の中に顔を埋めた。
クラウディオの熱に、翻弄されて。
燃えるような身体のすべてで、クラウディオを受け止めて。
俺はひたすら、ファルセットの嬌声をあげ続けた。





30 September 2006
藤乃めい(ましゅまろんどん)




2013年1月21日、サイト引越により新サイト(新URL)に再掲載。初掲載時の原稿を若干加筆・修正しています。
それにしても、何というか・・・読み返して我ながら思うけど、えろえろ全開だよね(爆)。