さしも知らじな  第四章 その3





「痕はつける・・・なっ」
耳朶を舐めるように、岩城さんが囁く。
甘い吐息が、俺の首筋にかかる。
「・・・うん」
未練たっぷりに、俺はのろのろと身体を起こした。
シャツを剥がそうとして、もう一度、岩城さんに制止される。
「・・・このままでいい」
「な・・・んで?」
俺はとっくに、素っ裸なのに。
ここまで来て、どうして脱ぐのを嫌がるのかわからない。
何か、見せたくないものでもある・・・?
傷跡とか、あるいは。
「・・・刺青でも、あるとか?」
ほんの冗談のつもり、だったんだけど。
岩城さんは、憤然として俺を睨みつけた。
バカか、って顔に書いてある。
「じゃあ、なんで」
「わからないのか」
呆れたように、岩城さんは眉を寄せた。
「おまえと同じ、男の身体だぞ」
「・・・え?」
「興ざめして、萎えても困るだろう―――」
「へ・・・?」
「・・・慣れて、ないくせに」
「あー・・・」
・・・もしかして。
俺は惚けたように、岩城さんを見つめた。
・・・俺を気遣っている、のか。
男との情事の経験のなさそうな俺のために。
俺と同じ性器がついてる岩城さんの身体を見て、俺がショックを受けるかもしれないから・・・?
「それ―――」
くらくらしながら、俺は子供みたいに首を横に振った。
―――そんなこと、あるわけない!
俺をどこまでも興奮させる、岩城さんの身体。
男だとかゆきずりだとか、沸騰した俺の脳みそはもう、気にも留めてない。
ただ、この人の裸体を見たいという欲望しかなかった。
剥き出しの淫欲。
彼の身体を見たくて、もっともっと弄り倒したくて、しょうがないのに・・・!



俺はゆっくりと、岩城さんのシャツのボタンをはずした。
「いいから、見せて」
彼の手を跳ねのけて首を振る。
俺は今きっと、ものすごくいやらしい顔をしてると思う。
「・・・ね・・・っ」
彼はもう、俺を止めなかった。
まるで俺に初めて興味を持ったような顔つきで、じっと見上げる。
「なに・・・?」
真っ直ぐな瞳に、俺は笑いかけた。
ホントは、そんな余裕ないくらい切羽詰まってるんだけど。
「いや・・・」
シャツの袖を脱がせる俺に、おとなしく腕を預けながら。
岩城さんは可笑しそうに微笑した。
変な奴だな、と言われたような気がした。
「・・・きれいだ・・・」
全裸の岩城さん。
彼のすべてを見下ろして、俺はため息をついた。
感嘆、だ。
間違いなく、大人の男性の身体なんだけど。
肌理の細かい白磁のような肌も、しなやかな筋肉も。
おそらく、入念に手入れされているだろう四肢も。
「すごく、きれいだ」
正視できないほど、艶かしい。
―――ありえないほどに、エロティック。
男の欲望を極限まで刺激する身体。
無防備に、俺の目の前に差し出されている。
「んん・・・っ」
敏感にざわめく肌を、俺は貪るように撫で回した。
赤い実のような乳首が、指にひっかかる。
それが楽しくて、何度もそこを摩る。
その度に、岩城さんは腰を捩って震える息を吐いた。
諦めたように、目を瞑ったまま。
俺の愛撫に、すべての神経を集中させて。
「きれいだよ・・・」
ほとんど無意識のうちに、俺は囁いていた。
セックスの最中に、こんなに相手の身体に見惚れたことはない。
―――嵯峨野で、最初に見かけたとき。
どうしようもなく彼に目を奪われて、夢中でシャッターを切った。
撮りながら、俺はまず、服の下の裸体を想像した。
妄想、と言ってもいいかもしれない。
・・・きっと、あのときからずっと。
俺はこの人に、溺れる運命だったんだ―――。



俺はもう一度、岩城さんの脚を開いた。
今度はもう、彼は何も言わない。
ただ目を閉じて、荒い息を吐くだけ。
諦め・・・?
辱めを耐えるような、そんな仕草で―――。
現実を直視するために、俺はぐいっと際限まで太腿を拡げた。
牛乳のようになめらかな股間。
半ば勃起して、先走りを零してる性器。
その下の双珠が、固くしこってるのがわかる。
「・・・んっ・・・」
俺はごくりと、唾を飲み込んだ。
曝された股間の、いちばん奥まったところ。
―――ぬらぬらと濡れる秘孔。
目眩がしそうなくらい、いやらしい眺めだった。
もっと見たくて、俺は彼の太腿を拡げた。
「・・・っ」
岩城さんの吐息が乱れる。
嗜虐的な欲望が、俺の中で頭を擡げる。
―――ここ、なのか。
アナルセックスの経験は、俺にはない。
っていうか、男とのセックスもこれが初めて。
だから、なんでそれを知ってるのか、自分でもわからないけど。
俺は迷わず、そこに指を伸ばしてた。
「・・・ああっ・・・」
つぷりと一本、指を差し込んだ途端に。
岩城さんが、裏返った甘い声を上げた。
そう、甘い声、なんだ。
―――ここが、いいのか。
ここを犯される快感を、知ってるのか。
「岩城さん・・・っ」
血が―――俺の血が逆流して、脳みそが沸騰しそうだった。
怒りにも似た、説明のつかない感情。
俺は夢中で、熱くて狭いそこを弄った。
「・・・んふっ・・・ああぁ・・・っ」
きつい締めつけだった。
女の膣とは、比べものにならない。
なのに中は、蕩けるように柔らかくて。
「すご・・・っ」
絡みつく柔襞に誘われるように、俺はそこをかき回した。
抉るように引っ掻いて、中から擽って、何度も捏ねくり回す。
「やあっ・・・ぁはっ・・・んんっ」
指を増やすと、岩城さんの腰が跳ねた。
震える太腿が、蹲る俺を挟み込む。
―――無意識に、やってるのかもしれないけど。
とんでもなく卑猥な仕草だった。
煽られて、俺の股間ははち切れそうだった。
「ん・・・ひぁんっ・・・」
なんとか押さえようとしてるみたいだけど、それでも彼の口から、切なげな声が漏れた。
感じてしかたないのが、ひねる腰つきでわかる。
うねる肛内で、わかる。
―――男に抱かれることに、馴れた身体。
アヌスで享受する官能を、この人は知ってる。
「挿れるよ・・・っ」
凶暴な欲望がこみ上げてきて、俺は唸った。
・・・許せない、という思い。
憤りに近い、不可解な感情。
震える両脚を掴んで拡げ、俺は自分の腰を押しつけた。
「はん・・・っ」
飢えて涙を零してるペニスを、岩城さんの入口に当てる。
とろけた柔襞が、期待にひくひくと蠢いた。
「・・・岩城さ・・・っ」
渾身の力を込めて、俺は一気に彼を貫いた。



☆ ☆ ☆



岩城さんは、ヤバい。
この人の身体は、ヤバすぎる。
・・・溺れる予感。
俺はきっと、はまってしまう。
どこまでも甘美な、毒のしたたる罠のように。
―――ねっとり濃厚な官能に絡めとられて、抜け出せなくなる・・・!



きつく目を閉じたまま、岩城さんが歯を食いしばった。
「んぐ・・・あっ・・・」
しなやかな腕が、助けを求めるように宙を泳ぐ。
紅潮した顔を逸らせて、まるで苦悶に耐えるように。
痛いんだろうか?
もしかして俺、乱暴すぎ・・・?
「・・・うっ・・・」
白い肌は、匂い立つように粟立ってるけど。
ちょっと辛そうに、眉をしかめて仰け反って。
だけど―――!
「・・・なに、これっ」
悲鳴を上げたいのは、俺のほうだった。
まるで未知の感覚。
深く腰を差し込んで、岩城さんの肛内を犯す。
ペニスに絡みつく内襞が、じんじんと燃えるように熱い。
力任せにめり込みながら、俺は窄まる奥を突き上げた。
狭い道すじを切り開くように。
「・・・きつっ・・・」
どうなってるんだよ、これ。
こんなに気持ち、いいなんて・・・!
やわやわと俺を包み込む粘膜が、ぎゅっと締めつける。
強烈な快感が、背中を駆け上る。
うねるアヌスが、猛るペニスに蹂躙されて狂喜してる感じ。
「うわ・・・っ」
したたる汗を拭いながら、俺は呻いた。
・・・良すぎだよ・・・!
俺の手も、腿も震えていたと思う。
ぐっと腰を捻じ込みながら、夢中で最奥を突いた。
何度も、何度も。
そのたびに岩城さんの全身が、弾かれたように跳ねる。
「んはぁっ・・・ん・・・っ」
白い喉を晒して、岩城さんは思いっきり背中を反らせた。
もがく手先が、シーツを力いっぱい握りしめる。
辛そうな、でも最高にそそる顔で。
「・・・こんなっ・・・」
こんなビンビンで余裕ないセックス、いったい何時ぶりだろう・・・!



「・・・ふっ・・・あんぁ・・・っ」
どんな情熱的な女も真っ青の、甘ったるい嬌声を上げて。
岩城さんは、震える両足を俺の腰に絡みつけた。
愛撫をねだるように、腰を揺らめかす。
―――たぶん、無意識にやってるんだろうけど。
男を煽るそんな痴態に、目眩がした。
この上なく淫猥で、綺麗だ。
俺のペニスが、岩城さんの中で限界まで膨張する。
「いくよ・・・っ」
岩城さんの脚を抱えなおして、俺はラストスパートをかけた。
・・・実際めちゃくちゃに良すぎて、それ以上あんまり保ちそうになかったから。
俺は手加減なしに、抉るように腰を突き入れた。
「ひぁうっ・・・ん、くぅっ・・・!」
激しい抽挿に、岩城さんがすすり泣く。
掠れた声がまたセクシーで、俺のバカ息子が最大値まで膨らむ。
俺は力任せに、岩城さんのアヌスを擦り上げた。
「・・・んふぅっ・・・」
苦しげな吐息。
岩城さんの白い肌が、濃い桜色に染まる。
俺の肩を掴む腕に、凄まじい力がこもる。
うごめく柔襞が、いっそう熱を持って俺に絡みつく―――。
「も、スゴすぎ・・・っ!」
堪えきれずに、俺は喘いだ。
岩城さんの腰を抱いたまま、思わず胴震いする。
「・・・んぅ・・・っ」
息も絶え絶えに、岩城さんが仰け反った。
それに合わせるように、俺も彼の中で、思いっきり自分を解放した。
メーターが振り切れそうな疾走感。
「ふあぁ・・・っ」
すっごい、強烈な締めつけ。
同じくらい強烈な、ぶち撒ける快感―――!!
「すげ、いいよ・・・っ」
ぴくぴくと痙攣する岩城さんの身体を、しっかり両手で抱きかかえたまま。
俺は恍惚と、そう叫んでいた。





藤乃めい
22 February 2007



2013年3月16日、サイト引越に伴い新サイト(新URL)に再掲載。初掲載時の原稿を若干加筆・修正しています。