さしも知らじな  第九章 その3





☆ ☆ ☆



「んん・・・っ」
真っ白なシーツの海。
オレンジがかった、ほのかな照明。
岩城さんの白い肌が、ぬめるように光っていた。
―――実際、奇跡みたいな身体だと思う。
「・・・あふっ・・・」
甘い喘ぎ声を聞きながら、俺は岩城さんの全身を愛撫した。
荒い吐息が、ときおり低く揺れる。
とまどっているのが、明らかに感じられた。
「よくない、岩城さん・・・っ?」
火照った肌が、まさぐる俺の五指に吸いつく。
その感触がたまらなくて、俺は何度も指をすべらせた。
眩しいほどの肢体だった。
綺麗だとしか、言いようがない。
―――あと何年かで、40歳になるって男の身体じゃないよ・・・!
「かとぉ・・・」
呆けたように、何度も甘く俺の名前を呼ぶ。
まるで、彼を抱いてるのが誰か、間違えまいとするみたいに。
「好きだよ、岩城さん・・・っ」
その度に俺も、彼の名前を呼んだ。
なだらかな胸のラインから、お臍までの曲線。
じんわりと汗をかいた肌を辿って、ゆっくりと下腹部を撫でる。
「・・・ふぁっ・・・」
俺の手が降りてくるのを待っていたように、岩城さんの太腿が震えた。
そろそろと膝が開かれ、俺を迎える股間が晒される。
抱かれる覚悟をした岩城さんは、とにかく従順だ。
―――どっかで俺が、違和感を感じるほどに。



「きれいだね・・・」
感嘆のため息をつきながら、俺は彼の秘所をじっくり眺めた。
視姦したって、言うべきかもしれない。
半ば勃ちあがったペニス。
それを慎ましく覆う淡い茂み。
きれいに手入れされたばかりなのがわかって、俺はちょっと顔を赤らめた。
―――俺のために、なんだよね。
それが嬉しいし、なんだか妙に照れくさい。
「・・・そんなに、見るな」
食い入るようにそこを眺めてる俺に、さすがに恥ずかしくなったのか。
岩城さんは苦笑して、俺の頭を小さく小突いた。
「だって、綺麗なんだもん」
くすぐるように恥毛を撫でて、俺はその下のアヌスに触れた。
「・・・あっ・・・」
「え・・・?」
―――ここ、濡れてる・・・?
岩城さんが目を閉じて、俺の指の感触を追いかけるのがわかった。
俺が弄りやすいように、自ら大きく膝を広げて。
少し、腰を浮かすような感じで。
誘われるままに、俺はアヌスに指を差し入れた。
「く・・・っ」
きつい窄まり。
それがやんわりと解けて、俺の指を呑み込んだ。
小さくきゅっと、卑猥な音がしそうな感じ。
わずかに顔を振る岩城さんの頬が、だんだん濃い桜色に染まった。
「痛かったら、言って?」
「・・・いいから」
大丈夫だから、と囁いて、岩城さんは大きく胸を喘がせた。
みっしりした感触の肛内を押し広げて、俺は指を進めた。
―――温かい。
湿った感触の柔襞が、ゆるゆるとうごめく。
粘着質の音と、ほんのわずかに甘い香り。
「これって、もしかして」
ジェルがすでに、中に塗られてるのか。
「・・・準備、って・・・」
俺は思わず、想像した。
岩城さんが自らを暴いて、ここに潤滑剤を塗り込めている姿を。
―――俺を、受け入れるために・・・!
卑猥すぎてクラクラするけど、でも、それって。
心が少しざわついた。
岩城さんが、そういう作業に手馴れてる、という事実。
―――かつて他の男のためにも、こうやって『準備』したのか。
こうやって、ぱっくり開いたアヌスを晒したのか。
嫉妬で、目の前が真っ赤になりそうだった。



☆ ☆ ☆



「あひぃ・・・ふっ・・・んんっ」
上肢を仰け反らせて、岩城さんが喘いだ。
シーツを握りしめた手に、ぎゅっと力が入る。
ぐちゃり、と音を立てて、彼のアヌスが俺の指をくわえ込んだ。
「・・・んあぁっ!」
―――両手それぞれの人差し指と中指、それから俺の舌。
何本入ってるのか、彼にはもうわからないかもしれない。
限界まで広げられたアヌスが、濡れてひくひくと震えてた。
「か・・・とっ・・・」
俺が内襞を舐めるたびに、岩城さんが悲鳴を上げる。
ピアノを弾くみたいに指を動かす。
ぴくぴくと、彼の腰が跳ね上がる。
―――喉が渇いて、たまらない・・・!
肛内のジェルを舐めつくした俺は、舌で熱い柔襞をくすぐった。
「いい、岩城さんっ・・・?」
聞こえているのか、聞こえてないのか。
俺の問いかけに、肩を震わせて彼が首を振った。
喘ぎ声が激しくなって、岩城さんの全身がぽおっと染まる。
「・・・あふっ・・・」
勃起した彼のペニスからは、じゅくじゅくと透明な雫がこぼれていた。
―――快感に、いきっぱなしになってるのか。
それは、強烈な媚態だった。
俺は中指で、届く限りの奥を引っ掻いた。
「んん・・・!」
腰を思いっきりねじって、岩城さんが全身を震わせた。
「ね、欲しい?」
貪欲なアヌスが、欲しがってるものが何なのか。
はっきりと岩城さんに、言葉にして言ってほしくて。
俺は肛内をめちゃくちゃにかき回した。
「・・・んぐっ・・・ひあんっ!」
涙をふり零して、岩城さんが仰け反る。
熱い柔襞が震えながら、ねっとりと俺の指を捉えた。



☆ ☆ ☆



もっと、もっと。
もっと、奥まで―――。
そう言わんばかりのはしたなさで、愛撫の続きをねだる柔襞。
「はうぅん・・・っ」
熱に浮かされたみたいな、とろとろの嬌声。
岩城さんは全身を震わせて、欲しがっていた。
もう待てないと、淫らに喘いでいた。
「なにが、欲しい・・・っ?」
俺は身体をぴたりと添わせて、岩城さんの耳元に囁いた。
片腕で彼の細腰を抱きこんで、しっかり固定して。
「ね、言って」
「・・・っ」
俺の体重で、固くしこった乳首を押し潰されて、彼が悲鳴を噛み殺す。
―――ここ弄られるの、好きだよね。
っていうかホントに、ものすごく敏感だ。
全身が性感帯って、こういう人のことを言うんだろう。
いつ、誰が。
どのくらい時間をかけて。
それを、岩城さんに教え込んだのか。
その相手のことを、岩城さんはどのくらい好きだったのか。
―――そんな考えたくもないことを、ふと、考えてしまうくらい。
「・・・かとっ・・・んぁあっ」
でも今、彼は俺の腕の中にいる。
熱い吐息で、俺の名前を呼んでくれる。
―――それで、今は充分じゃないか・・・?
「好きだ・・・岩城さんっ」
官能をどこまでも貪る、岩城さんの爛熟した身体。
信じられないほど蠱惑的な人。
男の悦ばせ方を、岩城さんは知りすぎるほど知ってる。
―――それに、嫉妬しないのは無理だけど。
でもそれは同時に、とても切ない気がした。
今のそのままの岩城さんを、丸ごと愛したいと、俺は思った。



「・・・も、早くっ・・・!」
肩で荒い息をつきながら、岩城さんが悲鳴を上げた。
かすれた誘い声に、俺のペニスがいきり立つ。
「挿れて、いいの・・・っ?」
とろとろのアヌスから顔をあげて、俺はほうっと息をついた。
ベッドに膝をついて、横たわる岩城さんを見下ろす。
ほわりと桜色に染まった肌が、汗に光っていた。
「岩城さん、ねえ」
かすれ声で、愛しい人の名前を呼びながら。
俺は彼の全身を、くすぐるように撫でた。
好きだよ。
綺麗だよ。
どうしようもなく、愛おしい。
そんな思いを込めて、指先で愛した。
「―――女じゃ、ないんだから」
わななく岩城さんが、潤んだ瞳で俺を見つめた。
「え?」
俺の手を、そっと注意深く払いのける。
「・・・そ・・・いうのは、面倒だろう?」
自嘲気味に笑って、岩城さんはゆっくり起き上がった。
「―――気を、遣うことはない」
のろのろと両手、両脚をシーツについて。
彼は淡々と、俺にきれいな白い背中を見せた。
「好きにして、いいから」
岩城さんの声は、聞き逃しそうに掠れていた。
「岩城さん?」
振り返って、首をかしげた俺に、ちらりと視線を投げかけて。
わずかに唇を噛むと、岩城さんは四つんばいになった。
「ええっ・・・!?」
肘を折って、額を枕に埋める。
俺の目の前で、高く掲げられた腰が羞恥にゆらめいた。
獣みたいにベッドに四肢をつき、そろりと膝を開く。
「・・・いいから、来い」
ため息のような誘い。
ギシリ、とベッドが無粋に軋んだ。
さんざん愛撫されて濡れそぼったアヌスを、自ら指で拡げて。
恭順の姿勢で、俺にそこをさらけ出す。
突っ込んでくれって、雌犬みたいに。
―――それは、違う・・・!!
俺の目の前が、真っ赤に染まった。






藤乃めい
27 August 2007



2013年5月21日、サイト引越に伴い新サイト(新URL)に再掲載。初掲載時の原稿を若干加筆・修正しています。