さしも知らじな  第十二章 その3





「・・・んっ・・・」
あえかなため息が漏れる。
「香藤・・・」
俺を呼ぶ甘い声。
「欲しいよ、岩城さん。もう待てない―――」
とびきりの低音で囁いて、俺は岩城さんのシャツに手をかけた。
「岩城さんは、俺が欲しくないの?」
見下ろす彼の視線を意識しながら、ゆっくりとボタンをはずす。
くすぐるように胸を愛撫する。
「香藤・・・」
誘うようなバリトンが、俺の名前を繰り返す。
―――もっと、もっと。
その声を聞きたいと思った。
「綺麗だよ」
なめらかな胸が、ほのかな桜色に染まっていた。
ぷっちりと勃ち上がった乳首は、きれいな茜色。
「美味しそうだね、これ」
俺はそれを口に含んで、舌先で転がした。
「ふっ・・・んぁん・・・っ」
途端に岩城さんの唇から、せつない悲鳴が上がる。
つるんと滑る茱(ぐみ)みたいな感触の乳首を、俺は丹念に愛した。
「・・・っくぅ・・・んぁっ・・・」
飴玉をしゃぶるみたいな濡れた音。
本当に、岩城さんは敏感だ。
吸いついて舐めて、甘噛みしては、舌先でくすぐって。
唇で愛してあげられないもう一方の乳首は、指先で弄んで。
岩城さんの全身が、小刻みに震えていた。
「好きだよ、岩城さん」
呪文のようにささやきながら、俺は徐々に身体をずらした。
岩城さんを立たせたまま、敷布団に膝をつく。
―――欲しい、欲しくてたまらない。
スラックスを脱がせて、俺は岩城さんの下着に手をかけた。
「いい?」
岩城さんは返事の代わりに、はっきりと形を変えた下腹部を俺にこすりつけた。
甘えるような媚態。
その素直な求愛が可愛くて、俺はくすりと笑った。
「香藤・・・」
笑うな、と彼が囁いたように聞こえた。
ブリーフを引き下ろすと、震えるペニスが飛び出した。
「・・・ああっ・・・」
「感じてるんだね、岩城さん」
先端がぬらぬらと光って、俺を誘う。
「嬉しいよ」
そのいやらしい眺めにクラクラしながら、俺はペニスを銜え込んだ。
―――ちょっと前までの俺なら、絶対に無理だった。
男の身体に興奮する自分。
もちろん岩城さんの裸だから、なんだけど。
そそり立つペニスも、その下の双珠も。
俺には、これ以上ないほどにエロティックに見える。
全身くまなく触れて、舐めまわしたくてしょうがない。
「ひあんっ・・・か、かとぉ・・・っ」
甘いかすれ声で、俺の名前を呼びながら。
岩城さんは細い腰をグラインドさせて、俺の愛撫に応えた。
俺が抱えている太腿が、快感に耐え切れないように震える。
「んっ・・・いいっ・・・?」
先走りをこぼすペニスを口で愛しながら、俺は岩城さんを見上げた。
蛍光灯の灯りに、ぬめるような白い肌。
腫れたみたいに赤い乳首が、濡れて光ってて。
まだシャツを羽織ったままなのが、なぜかいっそう卑猥な感じだった。
―――たまんないよ、岩城さん!
「岩城さん、俺が好き?」
「っはっ・・・んぅ・・・っ」
快感に肌を火照らせながら、岩城さんは陶然と頷いた。
愛おしげに、俺の頭をかき抱く。
「俺に抱かれるの、好き?」
岩城さんは、ほんのり桜色に染まった顔を俺に向けた。
「ばか・・・」
頬にぱっと朱を散らせて、そっと目を伏せる。
淫らな身体と思いがけない含羞。
「答えてよ―――」
焦らすように、俺はペニスの先を甘噛みした。
「・・・んくっ・・・嫌なわけ・・・っ」
身悶えするように、ぴくぴくと上半身を反らして。
岩城さんはぎゅっと目を閉じて昂ぶりをやりすごしている。
「あぁ・・・香藤・・・」
荒い息をつきながら、掠れ声で俺を呼ぶ。
達っちゃいそうな甘い囁き。
―――そそる、なんてもんじゃない。
「ここに俺が入るの、好き・・・?」
俺は指を滑らせて、裸の尻を捉えた。
じっとり汗の浮かんだ肌を、揉みほぐすように。
慎ましやかなアヌスを探りあて、入口をゆるく愛撫する。
「・・・ああんっ・・・!」
甘い嬌声が、部屋中に満ちる。
岩城さんの膝が、もうガクガクと揺れていた。
「こっちにおいで」
恋人の壮絶な色香に、魂を奪われた気分で。
俺は岩城さんの腕を引いて、敷きっぱなしの布団に彼を横たえた。



「・・・んっ・・・あふぅっ・・・香藤っ・・・」
涙を浮かべて、息も絶え絶えの岩城さん。
惑乱に全身を捩り、俺の愛撫を貪っていた。
「・・・いっ・・・」
白い腿を押し拡げて、震える脚を抱え込みながら。
ぴちゃり、くちゃり。
俺は濡れた音を立てて、岩城さんのアヌスを舐めていた。
―――狭くて熱くて、とろっとろ。
舌を突き入れて、やわやわな柔襞をくすぐり。
岩城さんの嬌声を聞きながら、入口のあたりをねっとり念入りに潤す。
指を差し入れて、熱い内襞をこねくり回した。
「も、もおっ・・・!!」
腰を激しくひねって、岩城さんが悲鳴を上げた。
布団から飛び跳ねそうなほど、上半身を仰け反らせて。
強すぎる刺激に、ぐっと息を詰めていた。
「・・・早く、やあっ・・・んんっ」
貪欲なアヌスが、俺を欲しがってひくひくと蠢いていた。
「岩城さん・・・っ」
目眩がしそうなやばいビジョンに、俺は思わず喉を鳴らした。
「・・・ここに、俺が欲しい・・・?」
我ながら、スケベなことを言ってる自覚はあるんだけど。
もっともっと、岩城さんがいやらしく俺をねだるのを聞きたい。
意地悪・・・なのかな。
俺、彼を泣かせたいわけじゃないんだけど。
もっともっと、理性も羞恥心もかなぐり捨てて俺を欲しがる岩城さんを見たい。
―――たしかめたい、のか。
岩城さんが、岩城さん自身がそれを望むから、俺に抱かれているんだってことを。
「言って、岩城さんっ・・・」
「か・・・とっ」
涙で霞む目を手の甲で擦りながら、岩城さんが苦笑した。
「うん?」
「・・・欲しい・・・そこ・・・来、てく・・・っ」
岩城さんは熱い息を吐きながら、自ら脚を開いた。
挑発するように、腰をゆらめかせて俺を求める。
「うん」
俺は素直に頷いて、岩城さんの膝を抱えた。
濡れたアヌスに、ペニスの切っ先を当てる。
「あげる・・・俺の、全部・・・っ」
岩城さんの膝裏を押さえ込んで、俺はペニスを突き入れた。
切りつけるように、一気に貫く。
「ああ、香藤っ―――んあぁっ・・・好き・・・っ!!」
俺の背中に両腕を廻して、岩城さんは嬌声を上げた。
どさくさまぎれみたいな岩城さんの告白。
「い・・・わきさんっ・・・!!」
俺は昂ぶるペニスをぐいっと最奥まで沈めて、疼く柔襞を抉った。
緩急をつけて、何度も。
熱い肛内がざわざわとうねり、俺を取り込もうと絡みつく。
きゅうっと窄まった岩城さんのアヌスを、俺はきつく擦りあげた。



「んんぅっ・・・んはあっ・・・!」
苦しげな甘い悲鳴。
岩城さんは全身を粟立たせて、ぴくぴくと仰け反った。
四肢すべてを俺に絡めて、陶然と官能に身を任せる。
シンクロする心音。
俺のペニスはいきり立ったまま、深く深く岩城さんを穿っていた。
抱いているのか抱かれているのか、わからないほど。
「かと・・・香藤っ・・・」
むせ返るような熱い肌の匂い。
額に光る汗が、つるりとすべり落ちた。
岩城さんの濡れた黒髪を、俺はゆっくりとかきあげた。
「見る・・・なっ」
「どうして?」
俺の声もすっかり掠れていた。
「・・・みっ・・・ともっ・・・」
ぽろぽろ涙をこぼしながら、岩城さんが俺を見上げる。
「なに言ってんの・・・」
―――ああ、また泣かせてしまった。
俺はすくいあげるように、岩城さんの上半身を抱き寄せた。
子供をあやすみたいにしっかり胸に抱えて、頬にキスをした。
「綺麗だよ、岩城さん」
「・・・かと・・・」
「泣いた顔も、ものすごく綺麗だ」
白皙を伝う涙を舌先で追いかけて、俺はにっこり笑った。
実際ものすごく綺麗で、可愛い。
妖艶ではかなげで、守ってあげたいと心から思う。
「岩城さん、幸せ?」
「・・・っ」
黙って何度も、何度も頷く。
まぶたにキスをすると、いっそう熱い涙があふれた。
「かとう・・・」
「好きだよ、岩城さん。愛してる」
「・・・ぅん」
顔を俺の肩口に埋めて、岩城さんは小さく頷いた。
嗚咽がとまらない。
「―――いくらでも泣けばいい」
愛おしい。
こんなに愛おしいと思ったことはない。
震える身体を宥めるように、俺はやさしく言った。
「俺はここにいるから。俺は岩城さんのものだよ。だから安心して、泣いていい」
―――そのうちきっと、彼は泣かなくなる。
なんとはなしに、俺は確信していた。
岩城さんの涙は、今までの自分を悼む涙だ。
後悔や自己憐憫を押し流すための、浄(きよ)めの涙。
いずれ、そういう感情は過去に葬られてしまうだろう。
「好き・・・大好き」
半開きの紅い唇に、俺はキスを落とした。
ついばむようなくちづけは、すぐに深くなって。
「・・・うぅんっ・・・」
俺は岩城さんの下肢を抱えなおして、ゆっくり腰を引いた。
「いや・・・っ」
夢中で腰をよじって、岩城さんが首を横に振った。
引き止める腕が、俺の背中で力を持つ。
「うん、大丈夫。抜かないから」
耳元でそう囁いて、俺はペニスをぎりぎりまで引いた。
腫れぼったいアヌスが蠢いて、名残惜しげに絡みつく。
「・・・んっ!」
達きそうな衝撃をこらえて、俺は再度、腰を叩きつけた。
「・・・はんっ・・・あっあっ・・・!!」
かすれた悲鳴が、甘く響く。
繰り返す律動に、岩城さんの身体がしなやかに仰け反った。
俺はめくるめく高みを目指して、ラストスパートをかけた。





藤乃めい
1 November 2007



2013年7月6日、サイト引越に伴い新サイト(新URL)に再掲載。初掲載時の原稿を若干加筆・修正しています。