December Love 03




熱いくちづけに、翻弄されて。
黒川は保坂にのしかかられるまま、背中からベッドに倒れ込んだ。
「んん・・・」
もつれるように重なり合った保坂の身体の熱さに、身震いする。
「ぷは・・・っ」
荒い息をつき、至近距離から覗き込む年下の男を睨みあげた。
「重いだろ、保坂くん。いきなり、こんな・・・」
「何が、いきなり?」
笑いながら、保坂が黒川の腰のタオルをするりと取り去った。
「あっ」
パサリ、とそれがベッド脇に落ちていくのを、黒川の視線が追う。
不安を押し殺した、ゆらめくまなざし。
保坂はベッドカバーをぐいと剥がして、その下に黒川を引きずり込んだ。
「ちょっ・・・」
シーツの上を素肌がすべる、シャアッというわずかな音。
それにすら、黒川は肌をそそけ立たせた。
「んっ」
抗う黒川をキスで封じて、保坂はその股間に手を這わせた。
縮こまったままの性器をそっと握り、無造作に扱く。
「あうっ」
喉を震わせて、黒川が身体をよじった。
「弓ちゃん・・・っ」
「ちょっと、保坂くん・・・っ」
黒川の声が裏返る。
「痛い?」
反射的に、黒川は首を振った。
そこを愛された経験が、ないとは言わないが。
気持ちがいいことくらい、知っているが。
それでも、骨ばった大きな手のひらに包まれる違和感と羞恥心に、眉をしかめる。
保坂の指が黒川の性器を、そしてその下の双珠を、ゆるゆると刺激した。
「ゆっくり、息をして・・・」
やさしい愛撫に、ゆっくりと性器が反応した。
「ふう・・・っ」
「そう、だよ―――」
ガチガチに固くなっていた黒川の身体が、少しずつ弛緩していく。
じわりと、背筋を這いのぼる快感に身体を侵されて。
「・・・はっ」
黒川はぎゅっと眉を寄せて、熱い息を吐いた。
肌がざわめき、体温が上がる。
「・・・弓ちゃん」
保坂の手の中で黒川の性器はおずおずと勃ち上がり、透明な液をこぼし始めていた。
ヌチャリ、と卑猥な音が聞こえる。
「ほ、さかく・・・」
自分を翻弄する男の名前を呼ぼうとして。
濡れた唇をわずかに開いた黒川に、保坂が噛みつくようにくちづけた。
「ん・・・っ」
甘い吐息を追いかけ、舌が絡まる。
生ぬるく濡れた感触に、黒川が少し首を振った。
湿った音をたてて震える性器をしごく手は休めずに、保坂は何度も、長いキスを繰り返した。
「はあ・・・っ」
黒川の声に初めて、甘えた響きが混じった。



それが、合図のように。
保坂は徐々に、唇をずらした。
唾液の流れを伝いながら、顎へ、首筋へ。
「弓ちゃん・・・」
喉仏のあたりをやわやわと甘噛みされて、黒川はひゅっと息をつめた。
「いい?」
ささやきに、黒川が首を振る。
くすりと、保坂が笑った。
「いいのか、悪いのか、それじゃわかんないよ・・・」
ひとり言のようにつぶやいて、保坂は、唇を黒川の胸に這わせた。
「うあっ!?」
乳首をチロリと舐められて、黒川が大きな声をあげた。
「條一郎、おまえどこ・・・っ」
頬を真っ赤に染めて。
黒川はとっさに、保坂の髪の毛を引っ張った。
「弓ちゃん、痛いってば」
苦笑しながら、保坂が黒川の手首を捉え、頭から引き剥がした。
「もう・・・禿げたらどーするの」
やんちゃな指先に、軽くキスを落とす。
大切なものを愛おしむように、何度も―――。



「そういうの・・・」
言いかけて、黒川はため息をついた。
あきらめたように、ポフリ、と枕に頭を沈み込ませる。
「なに?」
「・・・女扱いするな」
「え・・・」
「―――って、言おうとしたけど」
黒川は照れたように笑った。
自分を抱き寄せ、愛撫する友人を、少々複雑な思いで見つめる。
「やめたよ。不毛だから」
「弓ちゃん・・・」
「・・・何て言うか。保坂くんにとって俺はずっと、こういう対象だったんだなあ、って思ってさ」
ほろ苦い笑いを浮かべて、黒川は保坂の頬に手を添わせた。
その手に、保坂の手のひらが重なる。
「俺、結婚も離婚も体験した、ふつうのオジサンなんだけど」
「・・・弓ちゃん」
保坂が捉えた手を、ぎゅっと握った。
「・・・お父さんだよ、俺。おまけに、四捨五入したら不惑。わかってる?」
深いため息。
紅潮した頬はそのまま、黒川は自分を組み敷く男をじっと見つめた。
「不惑、ねえ・・・」
探るような視線がかち合う。
重なった手のひら。
・・・触れ合ったままの素肌が、熱い。
「・・・わかってる、けどね」
のそり、と保坂が身体をずらして囁いた。
「弓ちゃんは弓ちゃんでしょ。それともこういうの、ホントはいや・・・?」
躊躇うような問いかけ。
眦の切れ上がった綺麗な瞳が、ほんの少しだけ揺らめいた。



くしゃり、と顔をゆがめて。
黒川は笑って、ゆっくり横に首を振った。
「ズルイよなあ、條一郎は」
甘いバリトンの響き。
握られたままの手で、保坂の顔をなぞった。
「こういうときだけ、年下の男のふりをするんだから」
ざらりと、手のひらに感じるわずかな髭の感覚。
「悪い男に、掴まったもんだ・・・」
ため息のようにつぶやいた。
黒川の細い指が、ざらざらした顎を何度も行き来する。
まるで、男に抱かれているのだと、確認するかのように。
「それはこっちの台詞だって」
保坂が声を出さずに笑った。
「・・・信じられないけどね」
淡々とした口調で、黒川が言った。
「嫌じゃないから、困ってる。・・・俺は自分の意志で、ここにいるんだ」
まだ迷いの隠せない表情で。
それでも黒川は、視線を逸らさずにそう言い切った。
「・・・條一郎ならいいって、思っちゃったからね」
「弓ちゃん・・・」
保坂の舌がチロリと、捉えたままの指先を舐めた。
「ひゃあっ」
黒川の指を誘い込み、銜え込む。
一本、二本―――。
黒川の手を食らいつくすかのように、指に舌を這わせた。
「・・・うっわ、エロ」
視線を合わせながら指をむしゃぶるその姿に、黒川の喉がゴクリと鳴った。
「保坂くんって・・・」
うっすら赤く染まった頬を緩ませて、黒川は笑った。
「まったく。どこでそんなこと、覚えて来るんだろうねえ」



☆ ☆ ☆



男の大きな、汗ばむ手。
それがじわじわと下肢を伝う未体験の感覚に、本能的な恐怖を感じて。
「おい、ちょっと・・・うわあっ!!」
黒川は思わず、熱い息を吐いて喚いていた。
艶のあるバリトンが、ファルセットにひっくり返る。
「じ、條一郎ってば・・・!」
身体を起こした保坂が、バタバタと暴れる黒川の脚を両脇に挟み込んだ。
「ストップ・・・っ」
哀れな制止をつれなく無視して、保坂が黒川の膝に手をかけた。
太腿がゆっくり、容赦なく、押し開かれる。
「弓ちゃん・・・」
欲情に濡れた、かすれ声。
またたきもせずに、暴かれた局部を凝視しているのが、感じられて。
黒川は耐え切れず、両手で顔を覆った。
「やめろって、そんなとこ、見るの・・・!」
呼吸が乱れ、押し殺したかすれ声が悲鳴のように響く。
「ねえ、ちょっと・・・保坂くん・・・っ!」
無意識に、逃れようとしているのか。
上半身をよじり、腰を浮かせ、必死でベッドをずり上がる。
「弓ちゃん、往生際悪すぎ」
そんな黒川の下肢をしっかりと捉えて。
保坂は無言のまま、自分より一回り小さい身体をシーツに縫いとめた。
「ひゃあぁっ!」
熱い身体が重なり、肌がこすれあう。
「弓ちゃん・・・」
お互いの性器が触れ、股間に保坂の灼熱を感じて。
「待ってくれ・・・!」
保坂の指が、勃ったままの黒川の性器を撫で、双珠をなぞった。
それから。
ゆっくりと焦らすように、未開の後孔に触れた。
「うわっ!!」
そろり、と男の指が触れる違和感。
その瞬間―――。



「やっ・・・!」
容赦なく晒される身体に、耐え切れずに。
黒川は渾身の力をこめて、保坂の身体を押しのけた。
「え・・・」
腕をついてベッドに上半身を起こし、肩で息をする。
「待って、くれって・・・」
じんわり潤んだ瞳で、上目遣いに保坂を睨みつけた。
「言ってんだろ? 聞こえないふり、するんじゃないよ」
「・・・聞こえてるけどね」
ふっと顔をほころばせて、保坂がささやいた。
黒川の体重を支える手に、自分の手のひらを重ねる。
「本当にいやがってるわけじゃ、ないからさ」
「!」
「弓ちゃんの『待って』は、恥ずかしいだけでしょ」
「保坂くん・・・」
にっこり、笑って。
「かわいそうだけど、それは、聞いてあげられない」
保坂はもう一方の手で、黒川の髪をかきあげた。
「怖いのは、わかるよ」
情事に慣れない恋人の不安を吸い取るような、やさしい声だった。
「抵抗があるってのも、わかる」
むずかる子供をあやすような口調で。
指先にからまった髪の毛に、愛おしそうにキスを落とす。
「でも、俺はもう、待たないよ」
切れ長の瞳が、まっすぐに黒川を射抜いた。
「待てるわけ、ない」
のそりと、保坂が黒川にのしかかる。
ギシリとベッドが軋んだ。
「・・・英弓が、欲しい」
「!!」
「英弓のすべてが、欲しいんだよ―――」



「ねえ、触って・・・?」
保坂がささやいて、黒川の手を自分の股間に導いた。
すでにしっかりと勃起して、濡れそぼっている男性器。
「・・・っ」
黒川がそろりと手のひらを怒張にかざし、迷ったように保坂を見上げた。
「やっぱり抵抗あるかな・・・」
苦笑する保坂に、憤然と首を振る。
「何言ってるんだよ。さっきだって、握らせたくせに」
ゴクリと、唾を飲み込んで。
自分に矛先を向ける隆起を、やわやわと手に包み込んだ。
「うわ・・・っ」
ドクンと脈打ち、手の中でさらに勃起する熱いもの。
思わずといった調子で、小さく感嘆の声をあげた。
「・・・迫力」
掠れたその声に、保坂が明るい笑い声をあげた。
「・・・笑うな、おい」
「だって、弓ちゃん」
保坂が、ほうっと深く息をついた。
黒川が、軽く顎を仰け反らせた保坂に気をよくして、ゆっくりと愛撫を始めた。
「ん・・・いいよ、弓ちゃん・・・」
ささやきながら、保坂は黒川の肩を抱き寄せた。
柔らかな肌に顔を埋め、黒川の耳たぶを舌でくすぐる。
保坂は指を滑らせて、背筋をなぞるように愛撫した。
「あ・・・っ」
黒川のもらす甘い声が、快感を伝えていた。
「弓ちゃんの声、可愛すぎ・・・」
気だるげな瞳が、至近距離の保坂を映した。
「やっぱり本物は、いいね」
「・・・?」
じわじわと、身体の芯を這いのぼる快感から逃れるように。
黒川はブルッと首を振って、保坂の性器を握り直した。
「もう、これからはさ・・・」
うっとりとした囁き。
ねっとりしたキスが、黒川の項に落ちた。
「スタジオで弓ちゃんの喘ぎ聴いても、動揺しないで済むよ」
今まで、ホント勃っちゃって困ったからさ。
さらりとそう言われて―――。
黒川は頬を紅潮させて、保坂の性器をきつく握りしめた。
「痛いって、もう・・・っ」
保坂の文句を無視して、先端の敏感な部分を指で擦る。
「んん・・・っ」
「ほんとによく、そういうことを、恥ずかしげもなく・・・」
眉を寄せる保坂に向かって、黒川は呆れたように呟いた。
「・・・勘弁してよ」
くすくす笑って、保坂は黒川の手に指を添えた。
慎重な仕草で、自分にからみつく指を一本一本剥がす。
「大事に扱ってほしいよなあ」
保坂は楽しそうに笑って、黒川を両腕で抱き寄せた。
「そりゃまあ、弓ちゃんのモンだけどね、これ」
大まじめに、面と向かってそう言われて。
黒川は目を瞠って、保坂を見上げた。
ふっと、微笑して。
「・・・でもこれで、弓ちゃんと繋がるんだから」
情火の点った瞳で、保坂が言った。
抱擁がいっそう、きつくなって―――。
黒川は思わず、肌を震わせた。





ましゅまろんどん
28 March 2006



2012年11月26日、サイト引越につき再掲載。